「じいちゃん!」 大の字になって地面に横たわったじいちゃん。 まさか忍ばあちゃん恋しさに後追い自殺か? だとしたら、昨夜のオレたちがやったことは、じいちゃんを追いつめたことになりはしないか? そんなバカな! いや、でも……。 いろんな想いが千々に乱れ、じいちゃんの横に屈み込んだオレは言葉もなく、ただじっと顔を見つめるだけだった。 じいちゃんは目を閉じたまま、荒い息で胸を上下させていた。良かった。まだ生きてる。 「死んどらんぞ」 「わ、びっくりした。なんだよ、驚かすことばっかりしてさ。はた迷惑もいいとこだよ」 「知ったこっちゃないわい。……それよりな」 じいちゃんは目を開けると、オレの顔をジロッと見つめた。 「これからやることには驚くなよ」 そう言ったかと思うと、七十を越えた老人とは思えない俊敏さで身を起こし、池の中に両手を広げたままダイビングした。 「じいちゃん!」 ドボーン。跳ね上がった水が降りかかってくる。 オレは顔にかかった水を払うこともせず、石垣から身を乗り出した。 じいちゃんはすぐに浮かんできた。 「手を出して!」 しかし濡れネズミのじいちゃんは、水の冷たさも気にならない様子で、目ばかりキョロキョロさせている。 「早く手を!」 「うるさい。それより何かその辺に、砂を穿れるようなモノはないか?」 言われるままに周囲を見回すと、握るのに手頃な木きれが落ちていた。 「これでいいかい?」 「グッドだ」 受け取るとじいちゃんは水の上に浮かんだまま、石垣の間を木ぎれで掘り始めた。 石垣はほとんど垂直に積み重なっているので、オレの方からはよほど身を乗り出さないと、何を掘っているのか、よく判らない。 「親父!」 ようやく叔父たちが到着した。勘三郎、勘四郎、勘太郎の順。勘次郎叔父もふて腐れた顔ながら、しっかり付いてきている。 「旦那様、何をなさっておいでです。お体に障りますから早くお上がりください」 手を出す多々良さんやお文さんにも、 「ウルサイ!」 と一喝(いっかつ)、ひたすら黙々と掘り続けている。 老体とはいえなかなか器用に浮かんでいる。さすがは若い頃いろんなスポーツで鍛えただけある。 ガッガッガッガッ。 「ここじゃない」 ガッガッガッガッ。 「こことも違う」 じいちゃんの周囲の水はすっかり砂色に染まってしまった。鯉たちが遠くで非難がましい視線を送っている。 「おじいちゃんは何してはんの?」 志乃がオレの前に持ってきた靴を置くと、横に座って首を伸ばした。 「見えないだろ? オレにもじいちゃんの考えてることが判らん」 「手伝うてあげたら?」 「……まったく人騒がせな年寄りだ」 上着を脱いで志乃に渡すと、オレは石垣を伝いながら冷たい水に入っていった。 「コラ、邪魔するな」 「手伝うんだから、ガタガタ言うなって」 負けじと口を真一文字にして睨み返す。 「……頑固じゃのお。誰に似たんじゃ」 |