画面に映ったのは一家勢揃いの映像。頃は正月。ばあちゃんのまわりを息子や孫たちが囲んでいる。まだ数年前の映像だから、お宝とは言えないが。 「フフフ、この頃の勘三郎のヒゲはむさ苦しかったな。お袋が困った顔してたぞ」と勘太郎叔父。 確かに無人島帰りのように顔の下半分が真っ黒。 勘三郎叔父が苦笑する。 その後“平成元年”“昭和六十年”と矢継ぎ早に遡っていき、そのたびに叔父たちから笑い声や懐かしがる声が起こる。 予想外だった。こんなにウケるとは。最初は、ひょっとすると「邪魔だ」とすぐに追い払われるのではと心配していたのだが。 蛸のように怒りで真っ赤な顔だったじいちゃんでさえ画面に見入っている。あくまで無視しているのは勘次郎叔父たった一人。 “昭和五十年”。ばあちゃんの誕生日に蔵の中で撮影されたものだ。 「へえ。親父こんなの撮ってたのか。隅におけないねえ」と勘三郎叔父。 「取っ替え引っ替え、金髪撮りまくってるお前と違って、わしは一途じゃからの」とじいちゃん。 「こりゃ一本とられた」で大笑い。 始まって五分を過ぎる頃には、さきほどの険悪な空気はすっかり薄らいでいた。勘三郎叔父が自ら道化役を買って出たせいもある。 一番後ろで座って観ていたオレの手を、突然、志乃が握ってきたので思わずドキリとした。 「時間を逆にするのって結構面白いんやね。監督さんスゴい発想やん。さっすが天才!」 「ハハハ、ありがと」 時間軸を遡行(そこう)しながら登場人物の行動を結果から原因へとなぞっていく。日韓合作映画『ペパーミント・キャンディー』が頭をかすめたのかもしれない。重たい映画だったが非常に感銘を受けた作品だ。オレのお薦め。 振り返ればこれまでたくさんの映画を観てきた。どの作品も大なり小なりオレの血となり肉となってきた。積極的に映像に携わっていこうとしているこれからの人生、きっとそれらがオレを助けてくれることだろう。 「コウちゃんも帰りしなに言うてたよ。トシは光るものを持ってるって」 「村木君が? 光栄だな」 詳しく聞こうとしたその時、紅茶茶碗をガチャンと置く音がしたと思うと、勘次郎叔父がガバッと立ち上がった。全身が小刻みに震えている。 「も、もうたくさんです。現状から目を背けて夢や過去の栄光しか見ていないあんたたちには付き合いきれん! 私は何も嫌がらせで悪態をついているのではない。鷲村製菓の行く末を案じているからこそ苦言を呈している。なのに……親父、これ以上もう何も申しますまい。こうなったら法に訴えてでも“天使のプディング”のレシピを奪ってみせますからね。覚悟していてください!」 一息に言うと、喉が渇いたのだろう、カップに残っていた紅茶を飲み干した。あたかも体内の怒りに火がついたように瞳が炯々と燃えている。 残念。 最後の牙城である勘次郎叔父だけは攻略できなかったか。 失礼する、と吐き捨てるように言うと、叔父は部屋から出ていこうとした。 「ちょっと待て」 じいちゃんが片手を挙げて制した。その声にはただならぬ響きが含まれていた。笑っていた時とも喧嘩していた時とも異なる響きが。 勘次郎叔父も障子を開けたところで足を止め、不審な面持ちでこちらを見ている。 「ちょっと待て、俊郎、この映像は何だ?」 待てとは、オレに向けられた言葉だったのか。 画面右下には“撮影年月日不詳”の表示。 「これがどうかした?」 |