「聞いちゃいられないな」 「どないする?」 オレと志乃は居間の外で、中に入るタイミングを伺っていたが、 「ええい、ここまで来たらヤルしかないよ」 両手が塞がっていたので、閉め切った障子を足で蹴って開いた。思った以上に滑りが良く、障子は大きな音を立てて縦枠に衝突した。 「お邪魔します!」 親子五人の視線が一斉にこちらを振り向いたが、構わずズンズンと畳の上を歩いて行った。 「おい、俊郎君。大事な話をしているんだ。入ってこないでくれ」と勘次郎叔父。 「阿呆! ここはわしの家じゃ。勝手なことをヌカすな!」と勘兵衛じいちゃん。 もはや二人に付ける薬はなさそうだ。勘三郎叔父はしきりに宥めているが効果はない。勘太郎叔父は目を閉じて腕を組んだまま黙って座っている。勘四郎叔父に至ってはどちらの態度を取ることもできず、ひたすらおろおろするばかりだ。 彼らのことは気にせず、運んできたパソコンを部屋の隅に置くと、淡々と組み立て始めた。 背中に勘次郎叔父の視線が痛いほど突き刺さる。 と、続いてやはりタイミングを見計らっていたのか、お文さんが駆け込んできた。 「今日は美味しい紅茶が入っています。このあたりでご休憩されてはいかがでしょうか?」 まるで学校のガラスを誤って割ってしまい、意を決して職員室に報告に来た生徒のように、直立不動の姿勢で伺いを立てている。 「そうだな。いただきましょうか」 勘太郎叔父が瞼を開き、ドスの利いた声でそれに答えた。 勘太郎叔父の一声に、部屋に充満していた緊迫感がいくぶん和らいだ。兄弟のうち一番端っこに座っていた勘四郎叔父がフラリと立ち上がり近づいてきた。 「何やってるの? 手伝おうか」 「すみません、それじゃ洋間にあるテレビを運んでもらえますか」 「いいとも」 勘四郎叔父の丸めた背中が喜び勇んで部屋を出ていく。よっぽど居心地が悪かったんだな。 入れ代わりにお文さんがティーカップとポットを盆に載せてやってきた。 志乃は叔父たち一人一人に挨拶して回っている。勘次郎叔父はそっぽを向いたままだが、意外にも勘太郎叔父は細い目を見開いて「本当によく似てますよ」とうれしそうに言葉を交わしている。 やがて、多々良さんと勘四郎叔父が大型液晶テレビを運んできてくれた。オレはパソコン側の映像出力端子につないだケーブルをテレビの入力に差し込んだ。 「えー、おまたせしました。ただいまからお宝映像の上映を始めたいと思います。と言いましても高々二十分程度の長さです。どうぞ紅茶を召し上がりながら、ごゆるりとご鑑賞ください」 オレの口上に勘三郎叔父だけが拍手した。 「それでは」 間髪入れずパソコンの編集ソフトのプレビューボタンを押す。砂嵐状態だったテレビ画面が暗転し、そこに文字が浮かび上がった。 “おまけ”。 「おいおい、いきなりおまけかよ」と勘三郎叔父がお約束の茶々を入れてくれる。 画面に驚愕の表情をした勘次郎叔父のどアップが登場した。もちろん法要の際に撮影したカットだ。当人は渋面だが、他の人々はクスクス笑いを見せた。しかし続いて勘三郎叔父が「うわーっ」の声と共にテーブルの角に頭をぶつける場面が登場すると、皆遠慮せずに大爆笑した。 “平成十年”。 テロップが出る。時間を遡(さかのぼ)っていく趣向なのだ。 |