昼食を終えて、蔵に戻る道すがら、オレは志乃に訊ねずにはいられなかった。 「お前まさか、ばあちゃんを“演じ”ようとしてるんじゃないだろうな」 志乃は両手を背中で組み、胸を突き出して空を仰ぎながら、 「そうや。再現しようと思てる」平然と答えた。 「な……本気か?」 「本気やで。だってあたしにソックシなんやから、やらんかったらアホやで」 「まあオレだって考えなかったわけじゃない。三回忌のビデオだってまだ編集作業を終えてないから、いっそボーナストラックに再現ビデオを付けたら、ウケるかなってね」 笑いながらそう言った。すると志乃は胸の前で両手を組み直し、首を横に振った。 「違(ちゃ)うな」 「違う? 何が」 「あのな、よぉ考えてみい」 オレたちは池を跨(また)ぐ石橋の上まで来た。志乃は足を止めて振り向くと、ぐいっと腕を上げて両手を絡め、屋敷に銃を向ける仕草をした。 「いま、鷲村家にとって最大の問題は?」 いきなり尋問口調だ。 「そりゃあ険悪な親子の間柄でしょ」 「原因は?」 「じいちゃんの専横、横暴、傍若無人……」 「それ何語? しりとり?」 「つまりは、じいちゃんのわがまま」 「じれったい〜。要するに“天使のプディング”でしょ」 「そうだな。来週の会議で、蔵のレシピを強制公開することになるかもしれんしな。じいちゃんは絶対に許さんだろうけど」 「そもそもおじいちゃんが“天使のプディング”作りをやめはった理由は?」 「不明」 「そう、それが“第一の謎”」 今度は右手の人差し指を立てて、オレの眼前に示す。さらに、 「おばあちゃんが池のそばで倒れてた理由は?」 「不明」 「それが“第二の謎”」 「ちょい待ち。なんだか探偵気取りじゃないか。ひょっとして謎を解こうと言うわけ?」 「……あたしな、この二つの謎って、どっかでつながってると思うねん」 驚いた。いきなりとんでもないことを言う。 「その根拠は?」 「あらへんよ」 今度は威張るように反り返ったよ。 「それもアレか、例の“女の勘”?」 「当たり。アンタもだいぶあたしの性格が飲み込めたきたやん」 はあ〜。 「んで、それとばあちゃんを再現するのと、どう関係してくるんだ?」 「ククククク」 今度は口を押さえて忍び笑いを始めたぞ。この女優くずれは、まだまだ得体が知れない。 「あんねんあんねん、関係あんねん」 だんだん笑いが止まらなくなったらしく、体を折りながら、オレの胸を拳で連打する。オレはまた池に落ちたりしないよう、足場を確認してから、志乃の拳をつかんだ。 「ひとりで盛り上がってないで、ちゃんと説明してくれよ。いったいどう関係するんだよ」 「ムフフフフ。あのな」 五分後、志乃の話を聞き終えたオレは、そんなの無理だ、と心の中で叫びながらも、大いに興味をそそられていた。それは否定できない。 「やってみる価値あるやろ? そやから早よ蔵に戻って、フィルムの続き、見よ〜や」 |