セレモニーは、滞りっぱなしのまま終了した。 遺影のばあちゃんもさぞかし苦笑してるだろう。 じいちゃんとオレと志乃が、連れだってロビーに降りてくると、目の前に勘次郎叔父が立った。 「父さんも悪趣味ですな。その女性を」と顎の先で志乃を指し示しながら「仕込んでいたのは、いささか悪ノリが過ぎましょう」 だがじいちゃんは否定もせず、からかうような目つきで息子の鋭い視線を受け止めている。 叔父はゴボンと咳払いすると、 「来週の会議で、今日お話しした方針が正式に通過するでしょう。もしも出席されるのでしたら、脱線するような話は厳に慎んでください」 そう言って踵を返そうとしたとき、じいちゃんがさり気なく声をかけた。 「あのプリンは考え直した方がよかろう」 「なんですと?」 叔父は斜交いの姿勢で、父親を睨んだ。 「いや、それがまあ、わしの食べた感想じゃ」 「あたしもそう思う」 いきなり志乃が言葉を挟んだ。叔父は蛇に睨まれた蛙のように一瞬身を引いたが、忌々しげに鼻息を漏らすと、大きな足音を立てて出ていった。 「プリン、あのおっちゃんが作りはったんかー。なんか味に性格がにじみ出てたなー」 「おいおい、滅多なことを言うもんじゃないぞ」 オレがたしなめると、志乃はにんまりと笑って胸を張り、豪語した。 「“おふくろの味研究会”会長をナメたらアカンぜよ」 揃ってホテルを出たところで、じいちゃんが志乃に声を掛けた。 「お嬢さん、よかったら家(うち)に寄っていかないか」 「えーっ、いいんですかー」 じいちゃんはすっかり志乃を気に入ったようだ。 春まだ浅い陽の光が、開け放した廊下の向こうから、ガラス越しに畳を照らしている。風にそよぐ松の梢のどこかでウグイスが鳴いている。 まことにのどかな昼下がりである。 広い座敷では、軽く酒を酌み交わしながら、じいちゃんと志乃が話し込んでいる。オレが改めて紹介してから、二人はすっかり意気投合し、じいちゃんは志乃の東京での生活や苦労談に耳を傾けている。志乃を見る目の細いこと。やはり亡き妻の面影を志乃の上に見ているんだろうか。まさか「この女性と再婚する」なんて言い出さないだろうなぁ……。 二人の歓談が続く。オレはすっかり蚊帳(かや)の外だ。 オレは席を外し、台所に行ってみると、勘三郎叔父が一人でビールを飲んでいた。 「よぉ、俊郎、親父はどうしてる?」 「すっかり二人の世界に埋没してますよ」 「だろうなあ。オレだって超オドロキだったよ。思わず心の中で親不孝を謝ったくらいだもんな」 この叔父は、兄弟中で唯一、女ぐせの悪さで幾度となく生前のばあちゃんを悩ませた。五十を超えた今でも変わらずお盛んだという噂だ。しかし、オレにとっては最も話しやすい、気さくな存在の叔父なのである。 「なあ、叔父さん」 「ん、なんだ?」 「ばあちゃんが亡くなった原因って何なの?」 オレの質問に、叔父はしばらくコップを見つめていたが、やおら腰を上げると、 「庭に出ようか」 と誘った。 池に掛かる石橋の上で、叔父は前方を指さした。 「この池の向こう側に狭い空き地があるだろ、その先に蔵が見える手前」 「うん」 「お袋は、あそこに倒れていたんだ」 |