子供たちの返事に対して、カメラマンの不満そうなため息が聞こえ、観客たちの笑いを誘った。 画面の中の忍ばあちゃんは、カメラに両肩をすぼめて見せると、子供に向かって次の質問をした。 『お父さんの作るプリンは?』 すると今度は元気のいい言葉が返ってきた。 『好き好き』 『大好き!』 『食べたい!』 一人、長男だけがモジモジと両手を擦っている。 忍ばあちゃんは、彼の顔を覗き込んだ。 『勘太郎ちゃんは?』 『……いっぺん、お腹いっぱい食べてみたい』 さらに大きな爆笑が起こった。皆に注目された現在の勘太郎叔父は体を揺らして微笑んでいる。 映像は、池のたもとをそぞろ歩く五人の姿に切り替わった。 楽しそうに談笑している。池の鯉を指さして何事かを母親に伝えようとする子供たち。にこやかに子供たちの頭を撫でる忍ばあちゃん。 この幸せを、このまま保存したい。そんな愛情が画面に溢(あふ)れている。撮影するじいちゃんの姿は見えないが、今のオレとほぼ同い年齢だ。 ばあちゃんはもうこの世にいないが、フィルムのおかげで、オレは若き日のばあちゃんに会うことができた。そしてその姿は、志乃に瓜二つ。オレは因縁めいたものを感じずにはいられなかった。 当たり前だが、忍ばあちゃんの髪は、志乃とは違って金髪ではない。足の運びや、笑ったときの口へ手の持って行き方など、全体に楚々とした振る舞いは、志乃には到底できない芸当だ。唇の左脇に見える黒子(ほくろ)が見分けるポイントってとこか。 ……見分ける? オレは自分で自分の考えを笑った。 そんなオレを見て、勘三郎叔父が顔を寄せてきた。 「笑わんでくれよ、俊郎。オレだって恥ずかしいんだから」 叔父はプチシューを頬張ると、話を続けた。 「俺が物心付いた頃、お袋はまだ二十代だったけど、そりゃもう綺麗だったよ。学校の授業参観になるともう鼻高々でね。よそのクラスから覗きに来る父兄がいたりして、授業どころじゃなかったよ。ははは」 「ばあちゃんが映画出演したって本当ですか?」 「うん、端役だったけどね。十代で銀幕デビューして、いよいよこれからって時に、親父と婚約して引退。もったいない話さ。まあ、体が丈夫じゃなかったから、かえって良かったのかもしれない。とはいえ、産んだ子供が四人。大したもんだ」 「二人はどこで知り合ったんですか?」 「お袋の家はお隣さんだったんだよ」 「それじゃ、幼馴染み……」 「そう。親父とお袋は小さい頃から一緒によく遊んでいた。遊び場は主に家の庭でね。木に登ったり、池の周りを走り回ったり。かと思えば、蔵の中で本を読んだり。一人っ子だった親父にとっては唯一のご近所友達だったらしい。 それが年頃になると、互いに意識し始め、ついには結婚しようと約束するようになった。ところが親父の親父というのが頑固な人で、女優なんぞもってのほかだと大反対。しかたなく、外でこっそりと逢ったり、庭のどこかに秘密の連絡場所を設けて、手紙のやりとりをしたりっていう時代があったんだって。お袋が以前話してくれた」 最後はしみじみとした顔で呟いた。 画面の中では、玄関の松の木の前で、子供たちに囲まれた忍ばあちゃんが、こぼれんばかりの笑みを浮かべていた。 『みんなー、大きくなったら、お父さんのお仕事を手伝ってあげてねー』 『うん』 『いいよー』 |