じいちゃんの容赦ない言葉に、勘三郎叔父の頬はますます赤みを増してきた。 「それじゃ聞きますがねぇ。親父が涙を流すほど感動ものの極上プリンを食べさせてくれたのは、どこの誰でしたっけ」 答えはここにいる誰もが知っている。戦後日本にやってきたアメリカ人だ。 じいちゃんは、舌打ちしつつも、負けじと言い返す。 「そやから、わしは長年丹誠を込めて、日本人の口に合うよう、改良に改良を重ねてきたんじゃ。昔といっしょにするな」 五十の息子と七十の父親が、声を荒げて言い合っている。本人同士は必死で論戦を仕掛けているつもりなんだろう。しかし、似たもの同士だけに、掛け合いは妙にリズミカルで、端で聞いてる者には、その切迫感がほとんど伝わってこない。 現に、まわりの親族たちは、二人のやりとりを気にせず食事を進めている。たまに苦笑混じりの視線を送るぐらいである。 いつの間にか、双子らしい男の子達が、愛くるしい顔をテーブルの上に並べて、二人の様子を面白そうに観察していた。 「金髪娘に鼻薬を嗅がされて、フラフラしとるから、その年でも未だに独身なんじゃ。ほんまなら、この子らぐらいの子供がおってもおかしゅうない年齢のくせに」 「親父にとやかく言われる問題じゃない。どうせどんな女性を連れてきたって難癖つけるだろうがよ」 「おまえ以外の兄弟は皆、ちゃんと結婚したぞ」 「全部親父がお膳立てした見合い結婚だろうが」 せせこましい話になってきた。耳を傾けているのが辛い。双子の母親もそう感じたらしく、「こちらへいらっしゃい」と双子の肩に両手を掛けて、向こうに連れていった。あれは確か四男・勘四郎叔父の奥さんだ。晩婚で、二十も年下の美人と結婚した。双子が奥さん似で良かった。 その勘四郎叔父が心配げな表情で、じいちゃんの横にやってきた。よせばいいのに、おろおろしながら口を挟む。 「父さん、もうその辺にしてくださいよ。血圧が上がりますから」 その言葉は火に油を注いだ。じいちゃんは抉るように首を回して、四男の叔父に噛みついた。 「勘四郎! おまえもおまえじゃ! 他の兄弟のケツ追いかけるばかりでなく、たまには自分で企画書でも書き上げてみたらどうじゃ!」 いきなり、とばっちりを食った叔父は、それでもじいちゃんの気を静めようと躍起になっている。 こう書くと、勘四郎叔父はまるで能なしのように聞こえるかもしれない。しかしこれでどうして勘四郎叔父の調整能力には誰もが一目置いている。他の兄弟が道なき道を乱暴に切り開いていく後から、彼は丁寧に地ならしを行い、気がつくと綺麗な舗装道路が完成している。その能力を認めているからこそ、じいちゃんも彼を取締役の一人として遇している。そうでなかったら、オレのように外に弾き出されていたはずだ。 とはいえ、ビジネスと親子関係は別物だ。 ひとしきり勘四郎叔父に対して小言を並べたあと、返す刀は、勘次郎叔父に飛び火した。 「おい、勘次郎」 「なんでしょう」 次男は少し離れた席で、親子喧嘩など我関せずといった体で食事を続けていた。 「大事な日に遅れるほど、重要な打ち合わせとは何だったんだ?」 まるでロウソクの火が吹き消されるように、会食ルームのざわめきが止んだ。それは、皆が皆、普段から、じいちゃんと勘次郎叔父の間に漂う、尋常ではない緊張感を知っているからだ。 叔父はゆっくりと、ナプキンで口を拭った。 |