定点カメラのテープを入れ替えて、会食ルームの全景が収まるように設置し直すと、もう一方のカメラを持って、ひとまず自席に腰を下ろした。 学生時代のロケの撮影バイトの経験から、こんな時は、とにかくテープを回しておけ、が合言葉だ。映画と違って、いつ何時シュートチャンスが訪れないとも限らない。幸い今日は準備したテープの量も潤沢だ。オレにとっては久しぶりの撮影だから、今後の活動へのウォーミングアップも兼ねて、思う存分、撮影させてもらおう。 ポンとオレの肩が叩かれた。 「俊郎、本当に帰ってきたんだな」 右隣の席に着くや、持ち上げたビール瓶の口を揺らして、オレに受けろと催促したのは、三男の勘三郎叔父だ。既にネクタイを緩めている。 オレはカメラを録画状態にしたままテーブルの上に置き、コップを持った。 「いやあ、東京は肌に合いませんでしたよ」 「まだ若いから、チャンスはいくらでもあるさ」 注がれたビールがコポコポと旨そうな音を立てる。しかしカメラマンは飲んではいられない。儀礼的に一口だけすする。 反対に叔父はグイッとあおり、ぷはーっと息を吐き出すと、ビデオカメラの方を顎で指し示した。 「それは父さんの依頼かい?」 彼の言う父さんは、つまり勘兵衛じいちゃんだ。 「ええ、今日はバイトカメラマンです」 「つくづく物好きだねえ、ウチの家系は。でもまあ、俊郎が遅刻してくれたんで良かったよ」 「え? どうしてですか」 「だってオレまた親父とやっちゃったもん。見苦しいビデオがライブラリーに並ばなくてよかったぜ」 昨夜、お文がこっそり耳打ちしてくれた話を思い出す。じいちゃんに対して一番血気盛んに口論を挑むのは、やはりこの叔父だと。 その叔父は、目の前のビデオカメラのRECインジケータが点灯していることに気づいていない。レンズもわざと叔父に向けておいた。隠し撮りしているようで気が咎(とが)めたが、これもウチの家系の業と思って、堪忍してもらおう。 返杯するべく、ビール瓶を持ちながら訊ねる。 「いったいどんな話をしたんですか?」 「こいつは自分の趣味を仕事に持ち込もうと言いよったんじゃ」 険を含んだ声が突如、飛来した。オレも叔父もぎょっとした顔で振り向くと、じいちゃんが向かいの席から乗り出すように叔父を睨み据えていた。 突然の登場に面食らいながらも、オレは隠し撮りインタビュアーとして適切な質問を繰り出した。 「趣味を仕事にって、どういうこと?」 「そいつに聞いてみるとええ」 じいちゃんは吐き捨てるように言うと、料理の魚にざくざくと箸を突き刺した。 オレは持ったままのビール瓶を叔父のコップに傾けた。叔父はやれやれという顔で、席に深々と座り直すと、コップを見つめながら口を開いた。 「ホノルルにさ、支店を開こうと提案したのさ」 「ホノルルって、ハワイの?」 そこは叔父のレジャーやスポーツの足場だ。休日の大半はハワイで過ごしているという。 「オレだって鷲村製菓の取締役だ。サーフィンに現(うつつ)を抜かしてるばかりじゃないんだぜ。以前から百貨店やショッピングセンターなんかに顔を出して、うちの商品を扱わないかと持ちかけてたんだ。そしたら先日、あるチェーンレストランから色好い返事をもらってさ。デザートのひとつとしてメニューに加えてもいいってな。結構格式の高いレストランなんだぜ」 叔父の顔がだんだん紅潮し、身振り手振りが激しくなってきた。 しかし痛烈な言葉が向かいから飛んできた。 「外人なんかにウチの味が判るもんか」 |