− 第169回 −
第六章 光の河III 71
「以前から来い来いと誘われてたんだ。タンザニアからメールが来ただろう? 彼が率いるチームが今度調査隊を組むから是非参加しろと」
 地図を見上げる。アフリカの東側を指さした。
「大地溝帯の未調査の部分を重点的に攻めるんだそうだ。すでにいくつか新しい猿人の骨が出ているとメールに書いてあった。──それにな」
 博士は声をひそめた。
「タケルが話してくれた地底人の着想、面白いと思うんだよ。進化につながりがないのは突然地底から現れたから──突飛な説だがミッシングリンクの謎はその辺にあるかもしれんでな」
「地底人って何のお話?」
 井沢先生が地図を離れて近寄ってきた。
「いやいやこっちの話──タンザニアはいいところだぞと教えてやっとるんだ」
「いいなあ、私も行きたい。セレンゲティ国立公園でしたっけ、動物がいっぱいいるところ」
「ええ、是非おいでください」
「ホント? 本当に行きますよ」
 おはようございます、と祖父ちゃん祖母ちゃんが入ってきた。両手には大きな鞄を携えている。いよいよ今日、みんな京都へ帰るのだ。
 祖母ちゃんの後ろにタンクとホーダイの顔が見えた。ヨッとタケルに声をかけた。祖父ちゃんは、
「ロビーにおふたりがおられたので、お連れした。他にもマスコミの人がおったが、帰ると知れるとまたひと騒動起こりそうなので、こっそりじゃ」
「タケル君、お別れだな。ところで──あれから“黄金塊”は光ったりしてないかい?」
「今のところ大丈夫です」
「そうか。何か変化があったら教えてくれ。アレの写真を本の表紙に使わせてもらうつもりだ」
 ハイ、とタケルは元気よく答えた。
 祖父ちゃんが母さんの具合は? と尋ねた。
「今朝はちゃんと朝食を食べてくれました」
「そりゃ良かった」
 先生が博士に吐息が届く距離で話しかけた。
「残念ですわ、博士。また遊びに来ますので」
「そ──それはうれしいな。待ってるよ」
 ふたりはタケルの元気な顔を眺めた。
「あの子──ここ数日で急に大人びました」
「そうさな。将来が楽しみだ」
「──私、あの子がなんだか年の離れた弟みたいに思える時があるんです。最近夢にあの子がよく登場するんですけど、変なんですよ。あの子も私もね──お猿さんなの」
 え?
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