![]() − 第166回 − 第六章 光の河III 68 |
「だろう?──発見された金庫を見た専門家も、こんな溶け方ありえねえって言うしな。まあ、うやむやになるんだろうが──。タケル君の話にしてもそうだ。山で迷って蛍に道案内されたなんて、普通なら夢でも見たんだろうって言われて終(しま)いだ。──でもな、俺には何だか理解できる気がするんだよ」 「まさか神の意志でも働いたなんて──」 「最初はそうかもしれねえと思った。だが──どうもそんな大げさなモンじゃないような気が今はしてるんだ。神が与えたもうた使命ってんじゃなく、何かこう、親近感が持てるぐらいの“存在”に依頼されたって感じなんだな。どうかタケル君の力になってやってくれ──って」 「タンクさん……」 「へへ、ホントに俺らしくないよな。夕べも考えてたら、涙がこう──」 「アタマ、大丈夫スかぁ?」 病院に戻った博士は、無理がたたって捻挫した足がまた痛み出し、ベッドで唸っていた。 タケルは母のために同じ階の個室を貸してもらい、ベッドに寝かせた。聞けば、祖父ちゃんの電話を受けた祖母ちゃんから、タケルが大怪我して入院したと聞き違え、自分も米沢に行くと言い出したのだという。祖母ちゃんがその体では無理だと説得しても聞かず、ひとりでも家を飛び出しかねない形相だったので、ここまで新幹線を乗り継いで連れてきたのだという。 しかし母は県庁を出るとそのまま気を失った。病室に運び込んでからもずっと眠ったままでいる。 陽が落ちた。 タケルはずっと母の枕元に座っている。 ふと顔を上げると、母の眼が薄く開いていた。 「──母さん?」 タケルの声に母はわずかに反応し、ぼんやりと視線をタケルに向けた。 「──タケル……どうしたの、そんな薄着で。風邪をひくわよ……もうすぐクリスマスでしょ? 熱出したりしたら……ケーキ食べられないわよ」 「──母さん」 「あなた、なんだか大人っぽい顔になったわね。父さんそっくり。来年は四年生なのね」 ──違うよ母さん。あれからもう半年以上過ぎてるんだよ……。 タケルはたまらず窓を見た。美しい夜景が眼下に広がっている。そして窓の手前のテーブルには“黄金塊”が置いてあった。 |
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