− 第165回 −
第六章 光の河III 67
 式次第は滞りなく終わった。タケルと博士は退室して廊下に出た途端、またもや報道陣に囲まれた。ふたりが観念して応対していると、廊下の端から大きな声がした。
「タケル!!」
 弾かれたようにタケルは顔を上げた。そこには、タケルの母、由里子が立っていた。
「母さん──」
 タケルは記者たちを掻き分けて前に出た。
「タケル!!」
 母が再び呼ぶ声にタケルは駆け出し、母に飛びついた。後ろには母に付き添ってきた祖母ちゃんの姿もあった。その場にいた誰もが涙を誘われた。

 一同は県庁を後にし、井沢先生の車と、県の送迎車に分乗して米沢へと帰った。サユリはどこへ行ったのかバイクごと姿が見あたらなかった。

 タンクは遠ざかる二台の車を県庁のロビーから見送っていた。その横でホーダイがカメラを片付けていたが、一段落するとおもむろに口を開いた。
「終わっちゃったスねえ」
「──ああ」
「よく分かんないんスが、タケル君って住所を京都のほうに移してあるんでしょ? なのにどうして『名誉県民』になれるんスか?」
「昨年まで住んでたからな。それに居住者に限るってのはあくまで原則だ。条例に書いてある」
「そうなんスか──にしても、タンクさん、なんか今回のタンクさんはどこかヘンっスねえ」
「なにが?」
「さっきは黄金の記念品に眼の色変えてたし──この前TVに出演した時は、やたらタケル君や父親のこと持ち上げてたでしょ? いつもは人間なんて単なる取材対象だって言ってるタンクさんが、今回は妙に密着取材に走ってません?」
 タンクは送迎車の走り去った方向を愛おしそうに見ていた眼を、ゆっくりとホーダイに移した。
「そう見えるか?」
「見えるっス」
「なるほどな──」
 タンクは言葉を切った。ホーダイは次の言葉を待った。
「うまく説明できねえ。俺も今回の事件は腑に落ちねえことが多いと思ってる。おまえどう思うよ、金庫が溶けたっていう俺の話──」
「どうって……分かんねっス」
 ホーダイは肩をすくめた。
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