− 第164回 −
第六章 光の河III 66
“時空を超えて、再びめぐり逢う”。
 SF小説や映画などでよく聞く言い回しだ。
 いまタケルの頭にそれが浮かんだ。
 ──ありえない。ありえないからF(フィクション)なのだ。
 タケルは両手で“黄金塊”を持ち上げた。
 夢で見たものと寸分違わない。ズシリと重い。
“黄金塊”は父さんの顔をして見つめ返している。
 これは現実だ。
 だからタケルの疑問は当然だった。
 ──なぜ、ここにあるの?

「おい、あのブツの写真、撮っとけ!!」
 取材陣に混じっていたタンクはホーダイの肩を激しく叩いた。

「驚かれるのも無理ありません──」
 多賀橋知事はタケルにやさしく語りかけた。
「かなり純度の高い黄金です。この黄金塊は波多野の屋敷跡から発見されました。
 ──あなたがたのおかげで幸いにも人命は失われませんでしたが、多数の家が壊され土砂に埋もれました。現在も山崩れのあった現場では土砂の除去作業が進められています。
 この黄金塊はその中から発見されたのです。調査の結果、波多野があなたのお父様、武彦様から十年以上前に預かったものだと判明しました」

 タンクは心の中で毒ついた。──どうせ、気に入ったとか何とか言って取り上げたんだろうが。──しかし波多野も神妙になったもんだぜ。

 ──父さんはどこでこれを手に入れたんだろう。
 新たな疑問がタケルの中に浮かんだ。
「──どうぞお納めください。今日は私の独断で、この場でお渡しするのが相応しかろうと判断し、持って参りました」
 タケルは知事の顔を見上げた。
「お気づきになりませんか? その黄金塊の形は、我が山形県の形にそっくりなのです」
 あ──言われてタケルは見直した。確かにそっくりだ。なぜ気づかなかったんだろう。
「──我が県のシルエットは笑っている人の横顔にも見えるといわれます。いわば縁起のよい形をしているのです。この度はあなたがたおふたりのご活躍により──県のイメージが救われました。あらためて厚く御礼申し上げます」
 最後のところはふたりに近寄って耳打ちした。
 タケルはしっかりと黄金塊を抱いていた。
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