![]() − 第163回 − 第六章 光の河III 65 |
タケルは詳しくなかったが、サユリのバイクはオフロードタイプというもので、舗装された道路よりも悪路を走ることに長(た)けたバイクだった。白バイが迫ると、ツイとタイミングを外して川に降り、砂利の上を走ったりする。そうかと思えば林に突入して急斜面を駆け上ったりする。まさに変幻自在。警察は完全に翻弄された。サユリはパトカーが出動してきても、いっこう気にせず、我が道を往った。 山形市内に入るまでの五十キロの行程は、タケルにとってめくるめく時間だった。 「このままずっと走りつづけたいわね!」 サユリは言った。タケルもそうしたかった。 県庁前に到着したとき、警官たちは疲労困憊の極地だった。 「おつかれさま〜」 ふたりは蔵王の山を背に、建物に入っていった。 博士を乗せた車と井沢先生の車もやがて到着した。タケルの話を聞いて先生と祖父ちゃんは呆れかえったが、博士は腹を抱えて笑い転げ、すぐ、痛い痛いと胸を押さえてまた転げまわり、一同をひどく心配させた。 多賀橋(たがはし)知事は祖父ちゃんよりも年上だった。 タケルと博士は知事手ずから賞状と純銀製の名誉県民賞をいただいた。広い贈呈式会場は華やかな雰囲気に包まれ、多数の報道陣が次々にフラッシュをたき、テレビカメラがふたりを追った。 知事が博士に話しかけた。 「新出さんは私と同じ東北大の出身とお聞きしました。よろしければ同窓のよしみで今後、県の自然保護事業にご意見を賜りたい」 「考えておきましょう」 知事はタケルの顔を覗き込んだ。 「大和武君。君の御父様には大変申し訳ないことをしました。私からお詫び申し上げます」 そう言って深々と頭を下げた。タケルはどう答えていいか分からず、真似をして頭を下げた。 「昨年、君の家から検察がお預かりした御父様の所持品、ご本などはすべてお返しします」 ──あの懐かしい本や写真集が戻ってくる。タケルは眼が覚める思いがした。 「それからもうひとつ受け取ってもらいたいものがあるんです。武くんに」 知事は机の上から木箱を持ち上げて、タケルに手渡した。博士に支え持ってもらって蓋を開けると、そこには長旅に疲れたようにくすんだ色をした“黄金塊”があった。 |
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