− 第162回 −
第六章 光の河III 64
 タケルにたしなめられてサユリは安全運転に切り替えたが、じつに巧みに信号をパスしていく。
「ホホホ、だってアタイの町だモン」
 追走する白バイたちは全然追いつけないでいる。タケルはますます愉快になった。
 道は町をはずれ、国道を北上していく。米沢と県庁のある山形市を直接結ぶ高速道路はない。『米沢南陽道路』と『東北中央自動車道』があるにはあるが、その間がつながっていないのだ。
「サユリさん、ぼくは明日、関西へ帰ります」
「あら──それは残念ね。さみしくなるわ」
「夏休みの登校日があるから帰らないといけないって先生が言うし……。本当は博士の怪我が良くなってからにしたかったんだけど──」
「……」
 道の両側では稲穂が風になびいていた。信号の数は減り、走りは快適さを増した。
「アタイ、旅に出ようと思うの。思っていたの」
 サユリはおもむろに話し出した。
「落ち着いたら高校中退して、バイクで日本一周しようかと。そしたら博士に言われたわ。とりあえず卒業しろって。あと半年で、日本一周したい理由やら見たい物をレポートにして提出しろって言うのよ」
 サユリは大きな声を立てて笑った。
「さすがにそれはご免こうむるけど、博士の言いたいことは分かるわ。物を観る眼を養っとけってことなのね。できるかどうか自信ないけど、とりあえずこれからは旅の準備のつもりで勉強するつもりよ──何にせよ目標って大事よね」
「それじゃ京都に来たらウチに寄ってくれる?」
「当たりきよぉ〜」
『そのバイク、止まりなさーい!!』
 突然、空から声が降ってきた。いつの間にかヘリコプターが追いかけてきていたのだ。背後には数台の白バイがようやく接近してきた。
「うわー、まるで映画みたいだよ」
「ホントね、ウフフフ、もっと面白くしてあげましょうか?」
 サユリはハンドルを切って国道から脇道に折れた。これに泡を食ったのは白バイ隊だった。曲がりきれず数台が転ぶのが見えた。
「ざまあご覧なさい。警察のくせに威張るんじゃないわよ」
『こらー、そのバイク、ふざけるなー。少年を返せー、返してくれー』
 田舎道をヘリのけたたましい声がこだまする。道路を知り尽くしているサユリは無敵だ。
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