− 第158回 −
第六章 光の河III 60
「悪人一掃って感じですか……」
 博士はため息混じりにつぶやく。
「以前から調査されておったらしい。この機に乗じて一網打尽というか……都合のいい話じゃな」
 祖父ちゃんもうつむいて丸椅子に座る。良かったと素直に喜べないのは、腐敗が長きに渡ったことに対する憤りがあるからだ。
 コンコン。ノックの音がした。
 博士のどうぞという答えに入ってきたのは見知らぬ三人組の男だった。地味なスーツ姿で、ひとりは手に花束を持っている。
「はじめまして、私どもは山形県庁から参りました。新出勘太郎様と大和武様ですね?」
 県の人間がなぜここへと、ふたりは訝しんだが、用向きを聞いて驚いた。
 ふたりに『名誉県民』の称号を贈呈したいという申し出だったのだ。彼らはその伺いに来室したという。三人は何卒お受けくださいと頭を下げる。
「エラく急な話ですな。無論、受けるも受けないも、私らの自由なんですな?」
 すげなく博士が言うと三人はあわてた。そしてさらに頭を深々と下げて何卒何卒と懇願する。
「受けようよ、博士」
 タケルが耳打ちした。博士は意外そうな顔をしたが、肩をすくめると三人に向かって、
「分かった。お受けしよう」
 と答えた。三人は冷や汗をぬぐいながらも、じつは贈呈式を明日にも行いたいのだが、お怪我でご無理なら知事が直々にこちらへ伺うが、いかがしましょうかと、事務連絡をつづけた。
「わしの怪我なら案ずるに及ばん。明日、県庁に伺いますと知事にお伝え願おうか」
 それを聞くと県庁職員たちは平身低頭、ほうほうの体で帰っていった。
「タケル、どうして簡単に受けようなどと? 本来なら議会承認が必要な『名誉県民』だぞ。しかも明日贈呈だなどと焦りおって。いま県を覆っているダークなイメージを、わしら使って拭い去ろうという魂胆だ。今まで散々悪者どもをほったらかしにしておったくせに……嫌みのひと言も浴びせてやりたくなるじゃないか」
「うん──でも、いいチャンスだから喜んで受けたいなと思ったんです」
 タケルの脳裏にタンクの言葉がよみがえっていた。“これはチャンスだ”。
「まあな……わしひとりなら断っとったが……」
 そこへパソコンを持った先生が舞い戻ってきた。
「博士!! 設定できましたよ。接続しましょ・」
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