− 第156回 −
第六章 光の河III 58
 タンクはタケルと目を合わさず、レンタカーのほうを振り向いた。ホーダイが荷物整理を終えてカメラのレンズなどを拭いている。彼なりに気を利かせているのかもしれない。
「ホーダイ──口野ってカメラマンは見かけ以上に凄腕なんだ。自分じゃあんまし気づいてねえが本当にいい写真を撮るんだ。俺はどこへ行くにもあいつを連れて行く。いずれどこかで花を咲かせてやろうと思っているが……考えてみりゃ、俺はあいつにも支えてもらってんだ」
 タンクは夜空を仰いだ。タケルも見上げる。満天に星が満ち満ちていて、あの台風が嘘のようだ。
「俺が誰かに操られてたかどうかなんて、もう気にしねえことにした。今回のことで俺とホーダイの名前が、ちったぁ売れるだろう。これはチャンスだ。神様か誰だか知らねえが、俺に白羽の矢を立ててくれたことは光栄に思わなくっちゃな。
 支えたり支えられたり、チャンスをもらったり。俺たちの真価が問われるのは、これからどう活かすか──さ」
 タンクは手を差し出した。タケルはその手をがっちりと握った。
「つまんねえ話を聞いてくれて、ありがとうな。
 なんだか君ならちゃんと聞いてくれそうな気がしたんでな」
「いえ──ひとつ質問していいですか?」
「なんだい?」
「金庫の中から光を出していた物は何だったんですか?」
「うん、それがこれっくらいの──」
 タンクは両手を合わせて、ソフトボールぐらいの大きさを示した。
「金色の岩だったんだ。人の顔にも見えたな。結局、土石流に飲み込まれちまったが、見つかんねえだろうなあ」
 やっぱり、とタケルは心の中で納得した。
 タンクはタケルの肩にポンと手を置いた。
「それじゃ、これで失礼するよ」
「はい」
 歩き出したタンクは途中で足を止めた。
「そうそう、あの美人の先生、何てったっけ?」
「井沢美代子先生」
「その井沢先生──博士といい雰囲気だったな」
「えっ?」
「気づいてなかったか──ははは。博士は独身だし、ちょうどいいじゃねえか。五十男にもようやく春がめぐってきたかな」
 言い残してタンクは車を出した。
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