− 第155回 −
第六章 光の河III 57
「冗談だと思うだろ。かついでるんじゃねえかと。俺も他人から聞いたら、バカにするなって──」
「信じます!!」
 タケルは勢い込んで叫んだ。タンクはじっとタケルの顔を見ていたが、やがて口元をほころばせ、
「ありがとうよ──。でも、あれが現実か夢か、いまもって分からねえんだ。もちろん念書が手に入ったんだから夢のはずはねえんだが……。
 あの光が君にも見えたんなら、少なくともこの眼は信用してやってもよさそうだ──。
 あの夜、俺は念書を前にして頭を抱えちまったんだ。ずっと追っかけていた書類だからうれしくないはずはなかったが──複雑な気持ちだった。
 俺はあの光に導かれてここに来たのか、操られるままに取材してきたんじゃないだろうか──。
 そう考えると何もかもイヤになっちまったんだ。自分の意志なんてなかったんじゃないか、どこまでが俺なんだ、って。
 ──他人と折り合いをつけるのが下手で一匹狼になった俺が、誰かの手先になってたなんて、許せることじゃねえ! その日はせっかくのネタをどこにも伝えず、酒かっくらってフテ寝しちまったよ……。
 ところが真夜中にポカッと眼が覚めた。そしたら無性にいい気分なんだな、これが。記憶しちゃいねえが、何だか痛快な冒険をした夢を見たんだ。爽快な気持ちだったなあ。
 そしたら──どうでもよくなったんだよ。
 今回の山崩れだってそうだ。自然の力を見くびるこたあできねえ。ひとりの力はちっぽけだからおのれ独りじゃ敵わないのは道理だ。
 だからこそ──助け合わなくちゃならねえ。俺らしくねえ言葉だけどよ。ははは」
 タンクはテレて頭を掻いた。
「ひとりで何だってやってやる、信用できるのは自分だけ──思い上がってたんだな、俺は。今日インタビューさせてもらって痛いほど分かったんだよ。いろんな人間が自分たちのできるギリギリのことをやったんだなって。それがうまく連鎖反応を起こしたり、偶然が重なったりして、事件の解決に至った……。
 俺は念書を手に入れた直後、また土石流に襲われたんだ。すぐに逃げたが、土石流の流れは恐ろしく速かった。間一髪で助かったのは対策本部がすでに機能していて、土嚢(どのう)を積み上げたり、二次災害を防ぐ体制が整っていたからなんだ。
 ──つまり俺とホーダイにとって、君と博士は命の恩人なのさ」
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