− 第154回 −
第六章 光の河III 56
 タンクのインタビューは微に入り細を穿ったため、取材時間はゆうに三時間を超えた。終盤に差しかかった頃は、すでにとっぷり日が暮れていたが、互いに質問したりされたり、談笑も混じったりで、なごやかな雰囲気の中に時間が過ぎていた。
 タケルにとって初めての単独旅行。博士と合流してからの山中縦走。悪ガキたちとの対決。どの話もタンクをいたく唸(うな)らせた。タンクは今回の事件の全貌をまとめて、本にするつもりだという。
「しかし、ダム疑獄を暴くのが主体なら、わしらのことはあまり関係ないのじゃないかな」
 博士はあけすけに尋ねた。
「いいえ。私はただの暴露本や社会派ドキュメンタリーにはしたくないんですよ。できれば、そう、タケルくんを中心に、タケルくんの目線で書ければ、と思ってます」
 タケルはあわてた。
「そんな──ぼくの目線って……」
「ははは。どんな本になるか、仕上がりをご覧じろ。いずれ校正を送るからチェックしてほしい」
 タケルは訳も分からないまま、ウンと言った。
「それじゃ長時間ありがとうございました。博士、ご養生ください。タケルくん、玄関まで送ってくれるかい?」
 タンクとホーダイは皆に礼を言って部屋を辞し、タケルと共にエレベータに向かった。
 玄関を出ると駐車場に見覚えのあるレンタカーが止まっていた。
「──タケルくん」
「はい」
「じつは──」
 ふたりは足を止めた。タンクは少し言い淀んだが、すぐに言葉をつないだ。
「妙な話なんだけどね、今回の取材──」
「──事件の取材」
「そう。これが──何というか、俺は自分の力でやったような気がしないんだなあ」
「………」
「ありていに言っちまうと、俺がスクープした例の“念書”だ。じつのところ、あれは金庫の中に収まってたんだよ。──頑丈な金庫にな」
 タケルは黙ってタンクの顔を見つめた。
「それがどうして俺の手に入ったと思う?」
 そのことは病室では触れられなかった。
 ──光。タケルの口からぼそっと漏れた。
「そ、そうなんだ。君にも見えたのかい。光が!?……金庫がね──溶けて穴が開いたんだよ」
 タンクは頭を掻きながら苦笑した。
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