− 第153回 −
第六章 光の河III 55
 タケルは、胸の奥底から熱いものがこみ上げてくるのを禁じ得なかった。なんと、公共の電波で“父さんの無実”がハッキリと語られたのだ。
『──今後、捜査が進めば、波多野が大和さんに罪を着せようとしたことが明確になると思われます。いや明確にされないといけないでしょう。
 さらに、一昨日の山崩れをいち早く伝えてくれた、亡き大和武彦氏のひとり息子、武(タケル)君、そして彼の友人である新出勘太郎(かんたろう)博士の勇気に、心から敬意を表したいと思います』
 タケルは眼を丸くして博士を見やった。博士は泰然とTVを眺めながら、口を開いた。
「昨夜遅く、彼、丹内さんがここへ来たんだよ。タケルの父さんのことも、昨年の事件のことも驚くほど詳細に調べておった。この機を逃さずに一気に解決したいと言うもんだから、わしの知る限りのことを教えてやったわい──タケルにもいずれインタビューさせてほしいと言うとったぞ」
 そうだったのか。タケルはもう一度、画面のタンクを見つめた。報道番組の性質上、出演者は一様に渋面を並べているが、タケルにはタンクの顔が彼らしくないように思われた。
 扉が開き、祖母ちゃんに電話をかけに行っていた祖父ちゃんが戻ってきた。
「玄関のほうが、ごった返しておったよ。博士とタケルの話を聞かせろって報道陣がぎっしりだ」
「まあ……アタイは早く消えたほうがよさそう」
「そうなんですか。博士、どうなさいます?」
「タケル、どうする?」
 タケルはしばし黙考してから答えた。
「タンクさんの取材だけ受けたいと思います」

 インタビューの場所は、その日の夕刻、博士の病室にセッティングされた。
 博士は井沢先生に介助されてベッドの上に半身を起こした。すぐ横の丸椅子にタケルが座って、タンクと相対した。ホーダイがしきりに写真を撮る。井沢先生と祖父ちゃんが同席した。
 先に祖父ちゃんが口火を切った。
「まずお礼を言わせてもらいたい。丹内さんがテレビであんなに持ち上げてくれたおかげで、どうやらわしらの暴挙はお咎(とが)めなしになりましたわ」
 街宣カーを盗んだことや、無許可で避難を呼びかけたことだ。
「いいえ、見事なアイデアだったと思いますよ。最初に聞いたとき、思わず笑ってしまいましたが、タケルくんのアイデアだそうですね」
 タンクはそう言って、ようやく笑顔を見せた。
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