− 第152回 −
第六章 光の河III 54
 井沢先生は、ベッド脇のTVに取り付くと、急いでリモコンのスイッチをONにした。
 映った画面の隅に『報道特別番組』とある。
「ラララ、これ対策本部のある駅前じゃないの」
「やはり全国的にも大きなニュースだったのか」
 と博士。しかし先生は首を横に振った。
「違うのよ。聞いてて」
 先生はヴォリュームを上げた。
『──今朝、某紙にて報道された、昨年のダム疑獄の真相に、各界は大揺れに揺れております。スクープされた書類はいわゆる“念書”の形で取り交わされたもので、そこには波多野守県会議員候補とダム建設がらみの政治家や各省庁の官僚との間で交わされた密約が事細かに明記されておりました。
 現在、波多野容疑者は、米沢市内の病院に入院中で、警視庁は容態を確認した上、今日中にも逮捕に踏み切る意向です』
 画面には病院の全景が映し出された。
「あら、ここじゃない」とサユリ。「やーねえ。おんなじ屋根の下にいるなんて」
 CMになったので、みんな口々に話し出した。
「ね、驚いたでしょう」と先生。「なんでも一昨日に崩れた御殿の跡から発見されたんですって」
 先生は一通りの知識を得てから来たらしい。
「しかし、いくら予期せぬ自然災害といっても、そんな大事な書類が、よく簡単に見つかったものだな」とは博士。
「波多野自身、金庫に入れてたものが流出するわけないって怒鳴ってるんですって」
「そんなことまで報道されたの?」とタケル。
「いいえ、下のナースステーションで看護婦さんが教えてくれた」
 TVはニュースに戻った。
『スタジオにはスクープされたフリージャーナリストの丹内九州男さんにお越しいただきました。丹内さん、よろしくお願いします』
『お願いします』
 タケルはアアッと叫んだ。
「知ってる人?」先生が尋ねた。
 タケルはウンウンと頷きながら、食い入るように画面を見つめた。
『──私が強調したいのは、長年、かの地に君臨してきた波多野家の罪業のみならず、昨年不当逮捕の末に亡くなられた大和武彦氏は無実だったということなのです』
 タンクはきっぱりと言い放った。いや、どこか怒りを抑えながら話しているようにも伺える。
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