− 第150回 −
第六章 光の河III 52
「着陸してください!」
 タケルが、回転翼の騒音に負けない大声で叫ぶと、レスキュー隊員が振り向いた。
「彼が新出博士なのかね? 君に聞いた風貌とはかなり違うようだが」
「あの人じゃありません。下にいるんです!」
「どうして分かる?」
「合図してます!」
 隊員はあらためて眼を凝(こ)らした。そして言った。
「君の視力はすごいな」

 どうにか空き地を見つけ、ヘリは着陸することができた。扉を開けると、タケルは全身で湿度の高さを感じた。久しぶりの晴天が山に溜まった水分を蒸発させ、薄く朝霧を発生させている。
 ざく、ざく。タケルもレスキュー隊員たちも足音のする方向を見た。
 黒ずくめのバイクスーツに身を包んだ大きな男が近づいてくる。スーツはあちこちが破け、顔や手足に血がにじんでいる。
 そして──彼が両手に抱きかかえているのは、まぎれもなく新出博士だった。博士は薄目を開け、タケルに微笑みかけた。

 どう考えても金庫には不似合な代物だ。しかし、この物体がさっきの光を発したことは否定できないとタンクは思っている。これほどの厚みを持つ金庫を溶かして穴を開けた。ありえない──いやじっさいこの眼で見たんだから、ありえたのだ。でも──堂々巡りだ。どういうからくりなんだ?
 こわごわと手を差し伸べてみた。指先でツンと突っつく。若干の温みはあるが大丈夫そうだ。彼は両手を穴に差し込み、その物体を持ち上げた。
 ──やはり。
 夢に見た──いや、夢で見た“黄金塊(おうごんかい)”だった。
 ──なぜ、こんな場所に。
 タンクはしばらく疑問の嵐と格闘していた。だがカサカサという紙の音に、再び穴を覗き込んだ。
 たちまちタンクは現実に引き戻された。
 ──そうだ、俺にとっては“黄金塊”以上の黄金がこの金庫に眠っていたんだった!
 彼は“黄金塊”を脇にそっと置いた。そして穴から紙束をつかみ出すや、一枚ずつ丹念に調べた。
 そしてついに目的のモノを発見した。
 タンクは、ふと眼を上げて“黄金塊”を見た。
 ──俺を波多野の書斎に誘ったのは、オマエなのか? ひょっとして山形行きに誘ったのも。いや、そもそも取材する気にさせたのも。
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