− 第149回 −
第六章 光の河III 51
「あんなところに……」
 タケルは窓越しに黄金の光を凝視した。不審に思った隣の男性が、
「どうしたんだね」
と問いかけ、タケルの視線の先に眼をやったが、その時すでに黄金の光は消えていた。
「出発していいかな」
 操縦士がタケルに顔を向けた。
「ハイ。お願いします」
 扉が閉められると、タケルたちを乗せたヘリコプターは勢いよく空に舞い上がった。いよいよ新出博士を捜しに行くのだ。
 台風は各地で猛威を奮った。そのため手配したヘリコプターはなかなか来ず、太陽がかなり昇った時間になってやっと到着したのだった。
 タケルのやきもきは頂点に達していた。ヘリコプターはぐんぐん高度を上げたが、タケルの逸(はや)る気持ちはずっと先に飛んでいた。
「マズいな。危険地帯にまだ人がいるぞ。本部に連絡してやれ」
 波多野御殿跡を見下ろして、レスキュー隊員がつぶやいた。タケルの眼はそれがタンクであると判別できた。
 タンクは四角い物体の上に乗っている。何かを覗き込んでいるらしい。あそこは、さきほど黄金の光が放射されたあたりではないか。
 ヘリが岩壁の上を通過したため、タンクの姿は視界から消えた。

 もうひとり、光を目撃した者は樹上にいた。彼は森林に囲まれ、方向を確かめようとしていた。その辺りから西に向けて、山肌は大きく抉(えぐ)られているのが見える。木々は土石流に薙(な)ぎ倒され、巨大な戦車が通った跡のように前方が開けていた。
 黄金の光は、朝陽に負けぬ神々しさで、天に向かって放たれていた。
「あの光だわ」
 光は次の瞬間にはもう消えていたが、サユリはしばらく手をかざしたまま余韻に浸っていた。
 タタタタタタ。
 ヘリの音にサユリは我に返った。こちらに近づいてくる。サユリはポケットから白のミッフィーハンカチをつかみ出すと、大きく振った。ヘリはすぐに彼の存在に気づき、旋回を始めた。

「あそこ!」
 タケルが真っ先に発見した。サユリのハンカチが、木の下を激しく指し示しているのが見える。
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