− 第124回 −
第六章 光の河III 26
「おめえのような奴をさがしてたのよ」
 キョウスケは出会ったばかりのアタイに対して、開口一番そう言った。彼はありのままのアタイを認めてくれた最初の人だったわ。

 同じ高校に通いながら、同じようにはみ出し者だったアタイと彼はすぐに意気投合し、ムネオらと共にバイクチームを立ち上げた。とはいえバイクを持ってなかったのはアタイだけで、アタイは毎日死にものぐるいでバイトしたっけ。力仕事ばかりだったけど、どこでも重宝がられて、わずか一ヶ月で念願のバイクを手に入れた。とはいえ免許を持ってなかったので、取得できるまで夜の町はずれで乗り回して練習しまくったのが懐かしい。

 アタイの中には、常に怒りが渦巻いていたわ。美しいものへの怒り。アタイをこんな姿に作り上げた神様への怒り、アタイのありのままを認めず、捨てていった両親への怒り。
 町ですれ違ったハンサム男はすべて殴り倒した。安物の酒を浴びるほど飲んで化粧品店に行き、おもいっきりゲロを吐き散らしたこともある。とにかく、およそ美という観念が許せなかった。美があるから醜がある。美がなくなれば醜は消える。
 アタイはこの世から美を排除しようと決心した。そんな気持ちに賛同してくれたのもキョウスケだった。
「美というのは、金の上に成り立ってるんだ。金を持つ者こそが美術に親しみ、美食をたしなみ、あげくは自分のツラを整形したりする。そして美を独占するために権力を欲しがる。いいか、美と金と権力は三位一体なんだ」
 それからのアタイはキョウスケやムネオらと共にバイクで各地を駆けめぐり、夜も更けるまで議論し合い、楽しい日々を過ごした。本当の仲間を得たと思った。なのに──。
 アタイはキョウスケに裏切られ、ムネオに殴り倒された……。アタイが仲間と信じてきたのは一体何だったの? 何を信じたらいいの?

 眼の前にいるタケルというこの子は──。
 なぜこんな無防備にアタイに相対せるの?
 なぜこんな無垢な眼をアタイに向けられるの?
 アタイを「いい人」と断言した。何を根拠に?
 そのうえ「大昔に出会った」? 記憶にないわ、アタイには……記憶──何かしら、この感覚。
 この子の眼の中に燃えるものが見える。
 溶岩──いっしょに逃げた──洞穴を──。
 ゆうべ夢で見たような──。あれは──。
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