− 第117回 −
第六章 光の河III 19
 そのとき、眼を疑うようなことが起こった。
 サユリが、キョウスケと博士の間に割って入ったのだ。さすがにキョウスケもぎょっとしたらしい。
「ど──どけよ、サユリ!」
「キョウスケ……アンタ間違ってる。アタイたちがチームを組んだ頃、よく話し合ってたじゃない。権力に頭を下げたり、小金を稼ぐためにやりたくないことなんてしたくない、オレたちはオレたちのしたいことをしたいようにするためにチームを組んだんだと。だから貧乏でもいい。必死にバイトやってバイク買って、行きたいところをどこまでも突っ走って行こうぜって……。
 いいえ、お金のことは別にしても、どうして銃を使ったりするの? どこから仕入れたか知らないけど、それも一種の権力じゃない?
 この人の研究所に乗り込んだのだって、何か悪いことを企んでるからオレたちが天誅を下す……アンタがそう言うもんだから、鵜呑みにして付いてきたけど、それも怪しいみたいね。
 以前のアンタはそんな人じゃなかった。アタイたちの憧れのリーダーだったのよ。だからお願い、冷静になって、もう一度考え直してみて!」
 タケルは眩しいものを見るような目でサユリを眺めた。まるで猿人サユリが夢の中から飛び出してきたみたいに思えた。
 ダーンッ。
 銃口が火を噴き、銃弾は天井にめり込んだ。
「──サユリ、おめえ甘えんだよ。オレたちは高校生だが、すぐに社会と向き合わなきゃいけなくなる年齢(とし)だ。そうなったら夢だの可能性だのって言ってられねえんだぜ。あくせくバイトに精出してこの先もずっと生きてくつもりか? 夢を見てる暇もありゃしねえんだぜ。
 考えてもみな。たいして出もしねえ油田の脇で、噴水みたいにジャンジャン油が湧き出したとしたら。しないで済む苦労なら、しないに限る。
 さっきも言ったじゃねえか、使えるものは使わないとな。──大人になれ、サユリ」
 しかしサユリは微動だにしない。
「大人が聞いて呆れるわよ。アンタ、銃を持った手が震えてるじゃないの。顔色も悪いし。どだい無理なのよ、こんな強盗みたいな真似。
 ──ねえ、もうやめにしましょ」
 その言葉が終わるか終わらないうちに、ゴンッと鈍い音がした。頭を押さえてサユリが片膝を付いた。ムネオがこっそりサユリに近づき、棍棒を振り下ろしたのだ。
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