− 第115回 −
第六章 光の河III 17
「あん?」
 ムネオがアゴをしゃくって妙な声を出した。
「なに言ってんだ、野郎──」
「この仕事の見返りは、いくらなんだい?」
 その瞬間、部屋の空気は凍り付いた。
 キョウスケは息を飲んで博士を睨んでいる。
 ムネオはポカンと口を開けたまま、博士とキョウスケを交互に見ている。
 サユリはタケルを掴んでいる腕を、わずかに締めた。
 タケルは博士がまた殴られるんじゃないかと気が気ではなかった。
 当の博士は──額に垂れたぼさぼさの髪の間からキョウスケだけを見上げていた。
「こっちの猫背のあんちゃんは、テープを持ってきたら警察署長の父親が新しいバイクを買ってくれると言いおった。ちゃんと御褒美つまり見返りをもらうわけだ。──ならばボスのおまえも何かもらう約束をしとるんだろ? ん?」

 また雷鳴がとどろいた。かなり近い。
 雷鳴がおさまると聞こえるのは雨音と雨音が窓を叩く音、地下の発電機のブーンという音だけだ。
 キョウスケはと見ると、さっきまでの芝居がかった表情は失せ、目が完全に泳いでいる。
 博士の指摘は図星だったようだ。
 サユリの手がタケルから離れた。それに気づくと、タケルは一足飛びに博士の足元まで駆けた。それをきっかけに、部屋の空気がようやく動いた。
「そうよ! 確かにムネオは自分の口でさっきそう言ったわ。本当なのね、ムネオ!」
 サユリが大声を張り上げてムネオに詰め寄る。ムネオはただウーと唸るだけだ。
 サユリはキョウスケに顔の向きを変えた。
「キョウスケ! どうなのアンタ! アタイはそんなの信じたくないわ。それじゃバッド・エイリアンズの精神はどうなるのよ!」
 ……くっくっくっくっく。
 引きつっていたキョウスケの口から笑い声が漏れた。まだこの上どんな演説をしようというのか。タケルは博士に身を寄せながら固唾を飲んた。
 キョウスケは口を開く代わりに、手をライダースーツの尻ポケットに突っ込んだ。そして引き抜いたのは……黒光りする銃だった。
 あっと声を発したのは四人のうち誰だったか。
 キョウスケは笑みを浮かべたまま、銃口をゆっくりとあげた。
「ドラマごっこはおしまいだ」
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