− 第114回 −
第六章 光の河III 16
「ふふふふふ」
 また博士の含み笑いがした。聞きとがめたムネオがすかさず睨みつけるが、いくら痛めつけても笑いを絶やさない博士が不気味らしく、腰が引けている。その姿は猿人ムネオにそっくりだ。
「……おまえたちは、親父さんらの使いっ走(ぱし)りに成り下がったってわけだ」
 ヤカマシーと怒鳴ったムネオが棍棒で博士の腹部を突き上げた。
「やめとけ! そいつはワザとオレたちを怒らせようとしてるんだ。まだ分からないのか!?」
 キョウスケは近寄って棍棒を取り上げた。ムネオは何だよおと不平を言いながらも猫背をさらに曲げて、苦しげにうなる博士の顔に唾を吐きかけた。
 話の詳細を知らされていなかったサユリといい、彼らは決して一枚岩ではなさそうだ。タケルがそう思っていると、自分を抱えていたサユリの腕が疲れてきたらしい、タケルを床に降ろした。それでもタケルの両手はつかまれたままだ。
 今度はキョウスケが博士のそばにかがみ込んだ。
「なあ、あんた。こうなったら素直に出してくれよ。これ以上手荒な真似はしたくねえんだ。オレたちは単なるライダーだ。乱暴は好きじゃねえ。
 あんたの研究所にあった録音物は全部押収させてもらったぜ。カセットテープ、CDbR、MD。DATなんてのもあったな。中身をチェックした奴の話じゃ、鳥やら獣やらの声ばかりというじゃないか。何が楽しくてあんなことやってんだい、バカでかいアンテナ持ち歩いてさ」
「……アンテナじゃない。集音マイクだ」
 博士は苦しい息の下で反論した。
「どっちだっていいやね。あんたは一週間前の昼、それ持って山の中にいたんだってな。思い出してみな、あんたはその時、木の陰にアンテ──集音マイクとやらを設置して、離れてメシでも食ってたらしいな。そうとは知らずに親父の奴ァ、マイクの下で密談してたんだってよ。ちょうど建設予定地を見回ってた最中だ。あんたが爪楊枝を使いながら戻ってきたのを見てビックリしたらしい。あんたは何ごともなかったようにマイクとレコーダーを持って引き上げてった。
 どうだ、思い出したかい。その時に録音したブツが欲しい、それだけだ。さあ出せ!!」
「出しなァ!!」
 キョウスケの背後からムネオが追従した。
 博士は赤黒く汚れたヒゲの下で口を開いた。
「……それで、いくらもらえるんだ?」
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