− 第112回 −
第六章 光の河III 14
「まあオレの話を聞け」
 キョウスケは間合いを詰めてくるサユリの機嫌をとるように表情を和らげてみせ、大げさに両手を広げながら話をつづけた。
「バッド・エイリアンズの合い言葉はなんだ?」
「“オレたちは誰にも頼らねえ”でしょ。だから──」
「そうだ。オレたちは何ものからも自由である、それがオレたちの基本精神だ」
「アンタが最初にバッド・エイリアンズを作ったとき、オレは親父とは絶交してる。オレは一族とも関係ないし、波多野御殿なんてクソくらえって言ったわね。アタイはそんなアンタに惚れて付いてきたのよ」
 キョウスケは苦笑いを隠すように立ち上がり、雨粒が激しく洗う窓際に歩み寄った。
「オレはなにも変わっちゃいないさ。自由が一番、誰にも頼らず、おもねらず、頭を下げず、だ」
「じゃあ、どうして──」
「だから聞けっつってるだろうが!」
 突然、キョウスケは激した。だが得策ではないと考えを改めたのか、ふふふ、と取って付けたように笑い、壁にもたれて話し始めた。
「そもそもこの話は、親父のほうから持ってきた。つまり頼られたのはオレのほうなんだ」
 キョウスケは苦いものを噛んだような顔をした。
「おまえが抱えてるそのガキ、そいつの親父ってのがとんでもないバカで、オレの親父の部下のくせして、県をあげて進めていたダム建設に反対しやがったんだ。最初はたったひとりで何ができるもんかとみんなタカをくくってたんだが、驚いたことに国のお偉方が見直す方向で検討しはじめたんだ。ものに動じたところなんか見せたことのないうちの親父が腰を抜かすほど仰天したのさ。もちろんオレはそんなこと、知ったこっちゃないから、フフンと鼻で笑ってたんだぜ。でもまあ親父にすりゃ沽券に関わることで、大変だったらしい。それでも昨年末にそのガキの親父が逮捕されてからは、追い風に乗って評判も挽回するわ、銀行を息のかかった連中にまかせて、おのれは議員に立候補するわで、一気に世論を味方につけはじめ、まあ前途洋々ってな具合だったわけだ」
 キョウスケは一拍おいて聞く者たちを見回した。長広舌が堂に入ってるのは、父親譲りか。
「何度も言うが、オレにとっちゃ何の関係もない話だ。小さい頃から鬼っ子扱いのオレは家にいることもあんましなかったし、親父とは何年もまともに口を利いてなかった。ところがある日──」
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