− 第110回 −
第六章 光の河III 12
「仲間が昨日から、いつおまえらが現れるかと待ち構えてたってわけだ。そしたらさっきこいつに連絡があったんで──」
 キョウスケが胸ポケットから取り出して見せたのは高性能トランシーバーらしい。
「押っ取り刀で馳せ参じたってわけよ。オフロードバイクはこんなとき便利だぜ。一番近い道路からここまで、わずか五分だ」
 口元を歪めながらそう言うと、博士の顔を床に押しつけ、ざらざらの床面に擦(こす)りつけた。
「オレたちから逃げようなんて、どだい無理な話さ。その辺の暴走族とは違うんでな」
 後ろに控えていたムネオが、博士を踏みつけながら、猫背の上に乗った顔をタケルに向けた。
「こらガキぃ。おまえの捜索依頼が来てたぜぇ」
 えっ。タケルは驚いた。どうして知ってる?
「署のほうじゃ、このおっさんがおまえを誘拐して逃げてるってぇ話も出てるがなぁ」
 何のこと? タケルの頭は混乱した。
 万全の装備で博士をしつこく追い回し──。
 警察の中の情報さえ知っている──。
 彼らはいったい──。
「……おまえたち、ただの高校生じゃないな」
 博士が苦しい息の下で眼を光らせた。
「ふ、ははははは」
 キョウスケは大声で笑い出した。そして立ち上がると椅子にどっかと座り直した。
「録音テープはどこにある?」
 窓から、空を走る閃光が見えた。つづいてガラガラガラという音。雷雲が近づいている。
「……なんのことだ」
「おっさん、オレたちはこう見えても忙しいんだ。しらばっくれずに出せよ。おっさんが森ン中でたいそうなアンテナ片手に録音した、鳥の声のテープだよ」
「……あれはただの実験データだ。おまえたちも鳥の着ぐるみを着て実験に参加したいのか?」
「バカヤロー!!」
 ムネオが博士の脇腹を靴のかかとで蹴った。
「ゲホッ、ゲホッ」
「減らず口たたいてると、鶏肉みたいに火あぶりにするぜぇ!」
 博士は体を丸めながら、体をムネオに向けた。
「……そうやってお宝を持って帰ったら、おまえが怖くて怖くてしょうがない父上が、頭ナデナデしてくれるってか?」
「な──なんだとぉ!!」
 ムネオは怒りを炸裂させた。
←次回  トップ  前回→