− 第109回 −
第六章 光の河III 11
「おつかれさまー」
 思いがけない嬌声に迎えられ、タケルと博士は仰天した。その声が互いに相手ではないことに気づいても、雨に濡れて肌に張り付いたフードを取り払うのに手こずり、ようやく取り払って研究室の異様な空気に気づいたときには、完全に手遅れだった。
 博士は後頭部に激しい痛みを感じ、その場に膝を折って倒れた。
「博士!」
 太い棍棒で博士を殴り倒したのはムネオだった。駆け寄ろうとしたタケルは太い腕で後ろから抱きすくめられた。
「ハーイ、あなたのお相手はアタイよ」
 荒い鼻息を寄せてくる顔は忘れもしないサユリだ。彼らふたりは扉の脇に身を隠し、タケルたちが入ってくるのを待ち伏せていたのだった。
「会いたかったぜ、コノヤロー」
 最初にした耳障りな嬌声の主はキョウスケだった。彼は足を放り出した格好で椅子にかけ、正面からふたりを睨みつけていた。
 サユリの両腕がアナコンダのようにタケルの体を締め上げる。ムネオの時のように逃げるのは不可能だった。
 博士は倒れたまま、うめき声をあげた。ムネオはポケットから手錠を取り出すと、すばやく背後から博士の両手に掛け、
「この野郎! 着ぐるみなんかでオレたちをダマしやがって、これでもくらえ!」
 博士の胸を力まかせに蹴り上げた。転がった博士は頭を壁に打ち付け、激しく咳き込んだ。キョウスケはやおら椅子から立ち上がり、
「おいおい、痛めつけすぎて気絶でもされちゃあ、時間が無駄になるぞ」
「おう、そうだな」
「早いとこ、お宝のありかを聞き出すべし、だ」
 キョウスケは博士の頭元に腰をかがめ、博士の髪の毛を手荒につかみ、顔を引き上げた。
「こら、おっさん聞こえるか?」
「……おまえら、なにしにきた」
 博士の後頭部から床に血がしたたり落ちている。タケルは身動きできないまま、ただ見つめているしかなかった。
「気ばるねえ、おっさん。オレたちをナメたのが運の尽き、バッド・エイリアンズの人脈と情報網をバカにしちゃいけませんってーの。
 ここをアンタが借りてるって聞いてから、仲間がずーっと見張ってたんだよ。知らなかった?」
←次回  トップ  前回→