− 第103回 −
第六章 光の河III 5
 博士はタケルの肩に手をまわした。
「ことわざに“まさかの友が真の友”とある」
「まさかの……」
「そうだ」
 博士は立ち上がって、尻の土を払い落とした。
「まあ、ゆっくり行こうや」
「はい」
 タケルも立ち上がった。少し肩の力が抜けて楽になったような気がした。
 ふたりは風に飛ばされそうなフードを両手で押さえ、再び、森の中の道なき道を歩き始めた。

 昼前、ようやくふたりは到着した。
 博士の言う“基地”は、タケルの見たところ、全然それらしくなかった。白くて真四角のコンクリート作りの平屋建て。ただそれだけが尾根の見晴らしのいい場所にポツンと建っていた。
「もとは天気なんかの測候所だったんだ。わしが頼んで使わせてもらってるんだよ」
 アンテナが立っているところは確かに測候所っぽいが、少し曲がっている。いくつかある窓はヒビが入っていたが、すきま風の心配はなさそうだ。
 博士はポケットから入口の鍵を取り出すと、大きな南京錠に差し込んで開け、壁に埋めた鉄の輪と扉の把っ手に巻きつけてある太い鎖をはずした。
「秘密の基地へようこそ……といってもアニメに出てくるようなものとは違うがな」
 中はこざっぱりしていた。博士の性格上、使う前に大掃除したのだろう。殺風景だがきれいに整頓されていた。
 入ってすぐがメインの研究室で、元はさまざまな機器が据え付けられていたと思われる。今は広い空間に整理棚がいくつかあるだけだ。部屋はほかに調理場と寝室のふたつがあった。調理場にはガスがあり、簡単な料理なら作れそうだ。寝室の二段ベッドには、あちこちが破けたクッションが乗っていた。他にトイレと風呂。飲料水は屋上に設置されたタンクに雨水をためて使うのだという。
「地下室があるんだよ」
 懐中電灯を持って研究室から階段を下り、ドアを開けると十畳ほどの地下室があった。博士が隅に置かれた発電機を始動させると、基地のすべての部屋の電灯がいっせいにともった。
「ははは。まさに等身大の基地だよ」
 地下室には頑丈そうな棚があり、錠前をはずすと中には肉やら魚やらの缶詰が山ほどあった。
「うわあ!!」
 ふたりの胃袋が盛大に鳴り出した。
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