![]() − 第98回 − 第五章 溝の帯III 34 |
ドォーン。竜が尻尾をばたつかせ、最期の一噴きを空に撒いた。溶岩に混じって大小の石が音を立てて落下したが、そのひとつがキラリと輝いた。 近くへ寄ってみる。やはり“父の黄金塊”だった。 ぼくや姉の体はやけどだらけだったけど、大男さんはすり傷や切り傷だらけだった。聞くとあの後そうとう苦労したらしい。ぼくたちと離ればなれになって湖から上陸し、崖からはげ落ちる岩を避けて密林に分け入り、崩れた崖を発見してどうにかそこを踏み越えて、ようやく“溝の帯”を抜けることができたという。父や義母らも無事だと聞いてぼくは大男さんの手を取って何度も頭を下げて感謝した。しかしそんな人間じみた感情表現を知らない大男さんは、ただただ眼を丸くしているだけだった。 大男さんの報告によれば“溝の帯”のこちら側は森林が少なく、ほとんどが低い木で、木の実が少ないという。そんなわけでひとまず怪我人を残し、数人の仲間を連れて食料さがしに出てきたところ、ぼくたちと思わぬ再会を果たしたということらしい。 お互いの無事を喜びあったあと、ぼくは大男さんらをブラウン族に引き合わせた。今やブラウン族の長となった猿人サユリが大男さんとあいさつを交わした。最初のうちは信じられないという顔をしていた大男さんも、すぐに彼らとうち解けた。 大男さんによれば、ここは“溝の帯”からずっと離れた場所だという。隆起した崖のずっと北東にある丘の裾野だという話だ。思えば本当に遠くまで来たものだ。 その夜はベージュ族ブラウン族がともに膝を交えておそくまで語り合った。 ぼくは“父の黄金塊”をみんなの前に出して、これがぼくを導いてくれたことを明かした。誰もが驚いたようだった。これがなかったらぼくらは助からなかったと言うと、サユリは違うと言った。 『あんたは自分で判断して行動したんだ』 その言葉に大男さんも、姉もそうだと言った。 本当だろうか。いろんなことが立て続けに起きたので、まだ自分の中で整理できてない。やっとひと心地ついたから、これからゆっくり考えよう。 サユリの子が“父の黄金塊”をいじって遊んでる。──父さん、ぼくはせいいっぱいやったよ。ぼくは『行い正しき者』だったかな?── その夜、ぼくらは久びさの安眠を楽しんだ。 |
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