![]() − 第97回 − 第五章 溝の帯III 33 |
木の葉のようにぼくの体は天高く舞い上がった。 眼に入るものすべてがくるくる回っている。 そして「落ちる!」と感じた瞬間、ぼくの背中は地面に叩きつけられていた。 さらに二度三度とバウンドし、ぼくの体は大の字になってようやく止まった。体が金縛りにあったように呼吸がうまくできず、激しく咳き込んだ。 ウオオーーー。ガオオオオオオーーー。 遠くから猿人たちの叫びが聞こえた。危険を感じてハッと顔を上げると、太陽の光をさんさんと浴びて天に昇ろうとする竜の姿がそこに──。 いや、竜に見えたのはマグマだった。水鉄砲のように洞穴から噴き出したマグマが空に弧を描き、まさにぼくの頭上へ、その巨大な頭をふり下ろそうとしていたのだ。 あわてて膝を立て、ぼくは逃げた。噴出の勢いが良すぎたため、竜の頭が落ちてくるまで数秒の間があったのが、ぼくにとって幸いした。 どどーんという音をたてて地面に落ちたマグマは、そのまま流れをゆるめずに斜面を滑り降りていく。行く手にある背丈の低い木が次々と飲み込まれていく。 その光景を、眼を見ひらいてながめていたぼくのそばに姉がやってきた。 ──やったね。地上に出られたのよ。 そうなのだ。ぼくはまわりに寄ってきた猿人たちの姿を見てようやく実感した。姉のうしろにはブラウン族の生き残りが顔を並べている。サユリも地面に寝て右足をさすりながらこちらに視線を送っている。そのわきにはあの母子の姿もある。 助かったんだ。 太陽が山のいただきを離れて、少しずつ高度を上げていた。ということは、あのとき見た光は朝日だったのか。 しかし太陽と反対の空に眼を転じると、もくもくと立ちのぼる煙が見えた。噴火はまだつづいている。空の半分がネズミ色の雲で覆われていた。 斜面のへこみに沿って流れていくマグマは、のたうつ竜の姿そのものだった。あの中に飲み込まれていたら骨も残らず焼かれてしまっただろう。 竜はやがて地獄の世界へ戻っていこうとするかのように、谷底へと流れ落ちていった。 ウオオーーーーーーーイ。 別の方向から声がした。そちらを見たぼくは、姉とともに喜びの声を上げた。 大男さんだった。彼がベージュ族の仲間たちをひきつれ、丘の上からこちらへおりてこようとしていた。 |
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