− 第91回 −
第五章 溝の帯III 27
 大半の猿人たちは救うことができた。キョウスケら一部の人たちは残念だったけど……。
 物思いにふけるぼくの尻を姉が荒々しく叩いた。
 ──早く上にあがりなさい!
 そんなにせっつかなくたって。ぼくは猿人たちの肩に足をかけさせてもらって、猿人バシゴを一気に登った。サユリもつる草で体を縛って、みんなが力を合わせて引き上げた。
 元の鍾乳洞だ。離れたところでは、小猿の母親が中心になって、サユリに殴られた猿人たちを介抱している。花の匂いの届かない場所を見つけたようだ。
 しかし、みんなあわただしく動いてるのが気になった。ぼくは姉をつかまえて理由を尋ねた。
 ──ごめん! 言うの忘れてた。近づいてきてるのよ。
 姉はぼくたちのやってきた洞穴を指さした。言われるままに覗いてみると、かすかにゴゴゴと不気味な音がする。ぼくは見通せる曲がり角まで登ってみた。
 明るいものが降りてくる。それは溶岩流だった。とうとうここまで押し寄せてきたんだ……。
 あわてて鍾乳洞まで駆け戻った。みんなは溶岩に気づいて、逃げる先を必死で探していたんた。
 光りゴケがほの明るく照らす鍾乳洞の周囲には、数多くの洞穴があった。猿人たちはそのひとつひとつをあわただしく調べている。
 ぼくは大きな鍾乳石のひとつによじ登った。そこからは鍾乳洞の全景を見通すことができた。

 予感がしたのかもしれない。そしてそれは正解だった。まだ誰も調べてない洞穴のひとつが周囲とは違う色彩で光っているのに気づいたのだ。
 鍾乳石をおりて、その穴に近づいた。
 そこに“父さん”がいた。
 ここまで導いたのは亡霊では決してなかった。
 それは──黄金の塊(かたまり)だったのだ。
 太鼓橋の岩が溶岩流にくずれ落ちた際、川底に眠っていた塊は、はじき飛ばされてぼくたちの頭上高く飛び越え、洞穴の中を跳ね落ちていった。溶岩で熱せられていたから輝いて見えたんだ。
 塊が父さんに見えたのも無理はない。
 父さんの笑った顔にそっくりの形をしている。
 特徴的な鼻筋なんか生き写しだ。
 ……よくここまで転がってきたもんだ。
 ぼくはこの塊を追いかけてここまで来た。
 そしていま、この小さな洞穴の前にある。
 ぼくは黄金塊越しに、中のようすをうかがった。
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