![]() − 第81回 − 第五章 溝の帯III 17 |
進むべき道は明らかだ。猿人たちの背後から吹きつける風は、すべて眼の前の洞穴に吸い込まれてる。この先に地上へと通じる道がある。あるに違いない。そう信じるしかない。 しかしその洞穴は入ってすぐに二股に枝分かれしていた。左の道は、人ひとりが腕を広げたほどの広さで、上り坂が続いてる。右の道は、倍ほどの幅があるが天井が低く、下り坂になってる。 指先を湿らせて測ってみたところ、右の道のほうが空気の流れが大きい。 ここに到着するまでに、すでにかなりの距離を降りてきた。地表から何キロの深さにいるんだろうか。この先まだ潜ることには抵抗がある。早く空がみたい。 キョウスケが穴の分かれ目に近寄り、こっちだろう? という顔で左の穴をくんくんと嗅いでる。でもぼくの勘は右だ右だと騒いでる。なぜだろう。彼らを説得する根拠は何もないのに。 背後がざわざわと騒がしくなった。何ごとかと振り向くと、全員が後ろを向いてる。彼らの頭越しに、さっき渡った太鼓橋の岩が見えた。 その岩がまるで眠りからさめた生き物のように動いたのだ。岩を支えていた地面が大きくえぐれ、砂埃を空中に巻き上げた。やがて自分の重みに耐えきれなくなったのか、卵の割れ目に似たヒビを走らせ、ふたつに砕けてゆっくりと溶岩流の谷に沈んでいった。 これで本当に後戻りはできない。ぼくたちはその光景を、それぞれの思いを抱いて見ていたが、やがて自分たちの甘さを思い知らされた。 落下した岩が跳ね飛ばした溶岩の飛沫が、花火のように空を彩り、焼夷弾のようにぼくたちの頭上へ降り注いだのだ。 猿人たちは突然のことに我を忘れて逃げ回った。背中に直撃を受けて悲鳴を上げる者、隕石のような火の玉の下敷きになる者、あわてて溶岩流に飛び降りる者。まさに収拾のつかない状態だった。 「オーーーーーー」 姉の腕を掴んだままのサユリが一声吠えて、洞穴へと突進した。皆に「洞穴に逃げろ」と叫んだのだ。ぼくも追いかけた。猿人たちは火傷を負いながらも必死で付いてきた。 しかし、二つのどちらの道を選べというんだ。 サユリとキョウスケはぼくを振り返った。 そのとき、頭上を小さな火の玉が流れ星のように飛び越えていった。首をすくめたぼくは、そこに意外なものを発見して、固まった。 |
|