![]() − 第58回 − 第四章 光の河II 32 |
ギャギャギャギャギャーーーッ。 不気味といえばこれほど不気味な声を、かつて聞いたことがない。不気味というだけでは言い足りない。醜悪であり不快であり嫌悪感を感じさせる。タケルはブルース・リーが口から血を滴らせ、嗤いながら登場するシーンを想像してしまい、背筋がゾクゾクッとした。 頭上からも、地の底からも湧き出てくる声にタケルは耳を塞いだ。眼の端っこでムネオが「ひえひえ」と口走って腰を抜かす様が見えた。 ズズーン。ズズーン。 断続的な揺れが恐怖を倍加させる。映画『ジュラシック・パーク』でTレックスが最初に登場するシーンと同じだ。車の中に置かれたコップの水面が、ズズーンという音のたびに波紋を広げていたのを思い出す。 その雰囲気を煽(あお)るかのように、今度は電灯が点滅を始めた。 「何なんだよぉ、これよぉ!!」 「っるせぇ!!」わめき声が震えている。 ギャーッという不気味な声がサラウンドで響く中、さらに今度は羽ばたくような音が混じってきた。しかも、それは音だけでなく実体を伴っていた。どこから現れたか、おびただしい数のコウモリが宙を飛び交い、鳴き始めたのだ。 こうなっては超弩級のお化け屋敷に閉じ込められたようなものだ。風雨に晒(さら)されて揺れる家。明滅を繰り返す明かり、不気味な声、コウモリ。十重二十重の恐怖にタケルも三人組もパニックに陥った。ただ悲鳴を上げて逃げまどうばかりだ。 そしてついにとどめの一撃が振り下ろされた。テーブルがひっくり返り、怪獣が現れたのだ。全身黒い羽毛に包まれたカラスの親玉だ。こうなっては三人組も泣いてるのか笑ってるのか分からない。ヘラヘラとわけの分からないことを口走りながら這うように逃げ出した。タケルの脇をすり抜けて、玄関から表に飛び出していく。 「た、た、助けてくれ〜〜」 「ひえひえ」ムネオなど顔面汗まみれ涙まみれの鼻水まみれだ。おそらくバイクは置きっぱなしにされたことだろう。 タケルも後を追って逃げようとしたが、怪獣に足を掴(つか)まれてしまった。もうだめだ。食われる。そう思ったとき、 「おい、タケル、ワシだ」 人間の声がした。振り向くと、飛び交うコウモリを背景に、怪獣が新出博士の顔をして立っていた。 |
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