− 第57回 −
第四章 光の河II 31
「なあお前ほんとに、ココで何してた?」キョウスケは重ねて質問を浴びせてきた。タケルは何も答えず、ひたすらキョウスケの視線を真っ向から跳ね返していた。
「なぁよぉ」後ろのムネオが声を上げた。「オレこうやってんの疲れてきたぜぇ。メシもまだ途中じゃねえかよぉ。コイツ尋問すんの、後にしようぜぇ」
「ふーん、それもそうだな。ビールの気が抜けちまう──それじゃ、どこかに閉じ込めておけよ」
 そう言ってキョウスケとサユリが適当な場所を見つくろうため後ろ向きになったとき、気が緩んだのか、ムネオの腕が下がった。
 タケルは期を逃さず、右肘を振り上げた。
「ゲフッ」
 肘が見事にムネオの顎をヒットした。縛(いまし)めがはずれたタケルは、そのまま床にかがみ込むとテーブルの下に逃げ込んだ。
「こ──のクソガキ!!」ムネオが吠えた。
 タケルはそのまま裏口から飛び出そうと思ったが、キョウスケがいち早くそちらに回り込もうとしていた。サユリは反対側からテーブルに潜り込んできた。しかし大きな図体が邪魔している。
 タケルは空いている前方に転がった。体育の時間にやったマット運動の要領だ。回転する足がうまく椅子に当たって、戻って来ようとするキョウスケの腹にぶつかり、ウウと呻(うめ)くのが聞こえた。
 タケルは走った。廊下を玄関の方向へ駆けた。
 しかし唐突に足がもつれた。何かが足に絡まったのだ。勢いがついたままタケルは前に倒れ、額(ひたい)をゴンと床に打ち付けてしまった。手を当てるとわずかに血が出ていた。なんとか起きあがろうとするが、左肘もすりむいていて痛い。恐ろしさに眼を後ろにやると、サユリが投げたのだろう、ヘルメットを拾い上げようとしていた。
「あらら、ごめんなさいねー。乱暴しちゃって。血が出てるわ」と笑いながら近寄ってくる。そのサディスティックな顔はタケルをすくませるのに十分だった。「さあ、こっちにおいで。お兄さんがかわいがってあげるからっ。ん〜」
 サユリが覆い被さるようにタケルに手を差し伸べた、その時だった。
 ズズーン。
 家全体が揺れた。天井から埃が落ちてきた。
 ズズーン。
 まただ。地震か? タケルもサユリたちも壁に手をついて周囲を見回した。すると次の瞬間、身も凍るような怪鳥音が家全体に響き渡った。
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