− 第55回 −
第四章 光の河II 29
 ──こういう時って、物音を立てたりして敵に発見されるのがドラマによくあるパターンだ。だからあまり動き回らず、じっとしてなきゃ。
 タケルはドキドキしながらも、ワクワクしている自分に気づいていた。
「ホント、周囲が林に囲まれて、他の家からも離れてるから人目を気にしなくていいものね」
「でもよぉ、ちっとばかし薄気味悪くねえかぁ」とBが冷蔵庫からビールを取り出しつつ、外の気配を伺っている。「オレ、ひとりでここにいるのだけはご免だぜぇ。何か出てきそうだぁ」
「あの白衣の野郎を早く捕まえるこったな」
 博士のことを言ってるらしい。異星人の虜(とりこ)にはならなかったようだ。
「うまく始末すりゃ大手を振って、ここに俺たちバッド・エイリアンズの旗を立てられらあ」Aは傲然と言い放ってタバコに火をつけた。
 ──なんて奴らだ。こいつら博士を……。
 その時、ガーッと大きな音がタケルの鼻先で鳴り響いた。冷蔵庫のコンプレッサーだ。「ひっ」とタケルはのけぞった。
「なんだ!?」「誰だ!?」
 しまった! 自分のドジさに舌打ちしつつ、逃げようと体を動かした。しかし異星人らのほうが素早かった。冷蔵庫の両側からBとCがタケルをはさみ撃ちにした。
「あらまー、これはまた可愛いお坊ちゃん!」とCの言葉が舐(な)めるようにタケルの上に降り注ぐ。じっさいCの眼はタケルの姿を舐めるように上下している。
「ちょっとタイプよ、このコ」とCが迫る。
「おい、明るい所に連れてこいよ」とA。
「オッケー」とBがタケルを羽交い締めにすると、Aの前に引き出した。
 外はかなり暗くなっていた。Aは壁のスイッチを入れ、天井の明かりを灯した。
「これはこれは、小さな侵入者だな」とA。
 どっちが侵入者だ!
「ひょっとしてぇ、我がバッド・エイリアンズに入りたいのかなぁ〜?」とB。
「まあ待てよ」とAはタケルに話しかけてきた。「お前、こんなトコで何してる?」
 タケルは無言でAを睨みつけた。
「名前は何ていうんだ?」
 これにも答えなかった。
「だんまりかよ。可愛くねえな、こいつ」
「いいえ、アタイこのコのハンサムなお顔、知っててよ。──ヤマトくんでしょ?」
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