− 第54回 −
第四章 光の河II 28
 ──博士はここで何者かに襲われた! そうに違いない。あの電話に出た奴らが、博士の家の中をめちゃめちゃにしたんだ。まるで突然宇宙からやってきた悪者の異星人のように……。
 ブオン、と音がした。玄関の方角からだ。オートバイの音に似ている。何度も空吹かしをしている。UFOか? 異星人が帰ってきたのか?
「──ってもいいんじゃねえか、そろそろ」
「まだだッつってるだろーが」
 奴らはひとりじゃないらしい。やがて音が静まり、扉が開いた。ドヤドヤと入ってくる。
 ──博士は「研究所に近づくな」と言った。
 ──博士は、イカン! と言った。
 いかん! 異星人たちは玄関に上がり込んで、廊下をこちらへ向かってくる。武器のないタケルには応戦しようがない。タケルは裏口から逃げようと体の向きを変えた。しかし間に合いそうにない。奴らの足音がすぐそばまで迫っている。タケルはタッチの差で、迷彩スプレーで落書きを施された冷蔵庫の裏に逃げ込んだ。
「パソコンってのはな、しっかり中身を消しとかないと足がつくんだよ」異星人Aが面倒くさそうに吐き捨てた。彼がボス格なのか。「だから売り飛ばすのは、その後よ」
「でもよお。今月ガス代キツいんだよぉ。早いとこゼニが欲しいんだよぉ」これは異星人B。
「マアあのMacは一世代前の機種ですし、あんまり期待しないほうがよろしくてよ」
 最後の発言者の口調は少し気持ち悪いが、明らかに男の声だった。こいつは異星人Cだ。
「そんな話より、メシにしようぜ」Aは言った。
 タケルは冷蔵庫の横からチラリと覗き見た。彼らはテーブルの上に散らかっていたゴミを床に払い落とした。そして、テーブルにどっかと足を乗せ、買ってきたホカ弁を開いている。
「冷蔵庫からビール出せよ」とこれはAだ。身長は180ぐらいだろうか。髪をオールバックにした眼光の鋭いスリムな男だ。
「あいよ」とはBだ。Aより首ひとつ小さいが、猫背で、しまりのない顔つきをしている。
「アタイのもお願いね」とこれは……Cらしいが言葉遣いとの落差が大きすぎる。見た目はモロにボブ・サップだ。
 彼らはみな、黒のバイクスーツを着ている。年齢は顔付きからして意外と若い。
「しかしいいアジトができたぜ」とA。その声にタケルは聞き覚えがあった。あの夜、携帯の向こうで「バーカ」と言った声だ。
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