− 第49回 −
第四章 光の河II 23
『スーパー・ハタノ』??? 「ハタノ」って、
あの「波多野」?
 そうなのだろう。タケルの家があったのは元々、波多野家の土地だった。ローンは払い終えておらず、出ていく際に波多野家へ戻されたと聞いていた。ずっと前にうちの物じゃなくなっていたのだ。でもタケルにとって、住み慣れた家がいとも簡単に消去されたことは無性に悔しくてならなかった。
 気がつくと、入口の真正面に立ちつくしていた。主婦が、何この子、という顔でタケルの横を通り過ぎた。タケルは顔を見られないよう俯(うつむ)いたままそこを離れた。それでも未練がましくスーパーの敷地内にある駐車場に入ってみた。
 家はなくなったが、塀際に沿うように植わっていた木々はそのまま活かされていた。その一本にタケルは近寄った。その木だけは他よりも低い。
なぜなら──。
 ──父さん、ずいぶん成長したよ。
 それはタケルが生まれたときに、父武彦が自ら植えたものだった。多忙な時間を割いて、ある日曜日、母とふたりで運び込み、植え込んだものだと聞いたのを思い出した。
 タケルは木の横に立ち、振り返った。ふと建物の脇に異質な建築物があるのに気づいた。プレハブの二階建てだ。
 その時、プレハブの二階の引き戸がサッと開き、中から人が出てきた。タケルはアッと声を上げそうになった。タンクさんとホーダイさんだ。
 ふたりは階段を下りると駐車場に入り、こちらへと近づいてきた。タケルは声をかけようかと目でふたりを追っていたが、風に流れて聞こえてきたタンクの言葉に硬直した。
「大和武彦の──」
 反射的に、タケルは木の陰に身を寄せた。ふたりはタケルのそばまでやってきた。そして目の前に駐車していた車のドアを開け、乗り込んだ。すぐ出発するかと思いきや、エンジンもかけずにそのまま話し込んでいるようだ。
 タケルは屈(かが)んで、ソロソロと近づいた。
「──やっこさん、予想以上のタヌキだったな。
中央であれだけ逮捕者が出て、ここでも厳しい取り調べがあったってぇのに、涼しい顔してやがる。あんまりニコニコとしらばっくれるもんだから、
ちょいと痛いトコ突いてやったじゃねえか。ところが見たか? あいつ最後まで眉をピクリとも動かしやしねえ。罪をぜんぶ大和武彦におっ被(かぶ)せやがって、ワタシは知らぬ存ぜぬの一点張りだ。選挙初出馬だってのに、キモが据わってやがるぜ」
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