![]() − 第48回 − 第四章 光の河II 22 |
博士の研究所は、タケルがもと住んでいた家の近くで、途中に昨年まで通っていた小学校があるから、まともに行けば、必然的に以前の通学路を歩くことになる。顔見知りに会う可能性がある。それは困る。多少遠回りだが裏道を行くことにした。タケルは改めて帽子のツバを引き下げた。 道のあちこちに大きな水たまりができている。 いま雨は止んでいるが、空を見上げるとまたいつ降り出すかわからない雲行きだ。なるべく早く博士ん家(ち)に到着したい。夏とはいえ、台風のせいで気温は低いので歩くには好都合だ。 タケルはさっきから非常に空腹だった。お金は使いたくなかったが、このままではスタミナが切れそうだ。なので、やむなくコンビニでスナックパン一袋とスポーツドリンクを買った。 裏道は田圃に面していた。懐かしい風景の間をタケルはパンをかじりながら歩き続けた。 ──思い出せば、引っ越したのは今年の正月三が日の間だった。荷造りを祖父ちゃんの教え子さんに任せたら、アッという間に全部段ボールの中に収まってた。空っぽになった家の中はまるで洞窟の中のように声がよく響いた。……その後、あの家には別の家族が住み着いたんだろうか。 やがて登り坂になり、林の中に入った。墓場が遠くに見える。たった半年では何も変わらない。 ──なのにぼくはコソコソしてる。人目を気にしてる。風景を懐かしむどころじゃない。いったい誰のせいでこんなことになったんだろう……。 林を抜けると、桜ヶ丘団地に出た。タケルはメインストリートを避け、大きな池をぐるりとめぐる小道に降りて行った。ここを伝っていくとタケルの家の裏に出るのだ。 池を半周すると、地面が剥き出しになっている階段に出た。この辺一体を遊び場にしている子供たちがその足で削って作ったものだ。タケルもその一人だった。急勾配だが周囲の枝をつかみながら登ると、みごとなほどショートカットになる。 多少ぬかるんでいたが、タケルはひと息で登った。そこには懐かしい元(もと)我が家が見えるはず……。 ──なにこれ? 四角い巨大な箱がデンと鎮座していた。 いや違う、建物──店だ。タケルはその建物を見上げながら入口の方へと回り込んだ。自動ドアを何人もの人が出たり入ったりしている。出てくる人はビニール袋をかかえている。 スーパーマーケット! なんてことだ、タケルの家はスーパーに建て替えられていたのだ。 看板を見ると『HATANO』と読めた。 |
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