− 第47回 −
第四章 光の河II 21
 ホーダイの足は絶妙なバランスで、落ちそうなカメラケースをかろうじて支えている。
 列車はまもなく米沢に到着しようとしていた。
「おいこら、起きろホーダイ」
 タンクがホーダイの頭を叩いた。
「んああ、よく寝たあ」
「“寝たあ”じゃねえよ。早く起きねえと用のあるカメラだけもらってくぞ」
「だめっスよ。カメラがないと力が出ないよお」
「あんぱんマンか、てめえは」
 車窓いっぱいにホームが見える。駅の表示板には『米沢』とある。とうとう着いた。
 三人はホームに降り立ち、改札へと向かい、並んで白亜の駅舎を出た。タンクはタケルに、一緒に昼飯でも食うかと誘ったが、タケルはお金が無かったので、そうとは言わず、ここから歩いてすぐの親戚ん家で用意してるからと断った。
 タンクはタケルに向かって手を差し出した。タケルはその手を握った。
「あんがとうタケル君。おかげで道中、退屈しなかったよ」そう言って握手の手に力を込めた。
「──ぼくも楽しかったです」
「またどこかで会おうや」
「はい」
 タケルは二人に別れを告げ、駅を後にした。
「珍しいスよね、子供嫌いのタンクさんがずっと話し相手になっていたなんて」
「バカ、俺は利発な子供は好きなんだよ」
 タケルの姿は角を曲がって見えなくなった。
「“桜井”なんて母方の名前を名乗るとこなんざ、泣かせるじゃねえか」
「え? タンクさん、あの子知ってるんスか?」
「大和武クンだよ」
「大和っていやあ……エッ、大和武彦の?」
「そうよ、一人息子さ──毎晩資料と首っぴきだから見間違えようがねえよ。母親と一緒に今は関西に住んでる。いずれ折を見て取材にうかがおうと思ってたが、今日はいい顔つなぎになったぜ」
 タンクは自分の鞄を背中に抱えた。
「さあ、昼飯食ったら、いよいよ敵さんの牙城に乗り込むぞ。お忙しい方だから時間通りに選挙事務所に到着しないと、アポを反古にされちまわ」
「おいら、武者震いするっス」
「いい加減その舎弟言葉やめろよな。頭も財布もスースー風通しいいって言ってるようなもんだ」
「ひでえ……ス」

 タケルは山手へ続く道をテクテク歩いていった。
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