− 第45回 −
第四章 光の河II 19
「渡世人だなんて、タンクさん、フーテンの寅さん気取ってんスか」
「そうよ。♪義理と人情に厚いこの俺が、弱きを助け強きをくじき、世の悪党どもを燻(いぶ)り出し、マジメにコツコツ生きてる人たちに『あぁ〜生きてて良かったなあ』と言ってもらえる世の中を作る、そのために日々戦ってるんじゃねえか」
「おいらはコツコツ金貯めて、いいレンズ買えればそれでいいス」
「まったくお前はいつも俺をブルーにさせるぜ──まあ、人情に厚いとこでも見せてやるか。その抱えてるレンズケース貸してみな。上の荷台に乗っけてやるからよ」
 相方は、取られそうなお菓子を隠すように、レンズケースをガバと抱きしめた。
「いいっス、いいっス。無理して乗せて落っことされでもしたら大変スから。こうやって膝の上に乗せとくっス」
「バカ、俺がそんなドジ踏むように見えるか? ええい! そんなら俺の席に置け」
「は? そしたらタンクさん、立ってんの?」
「なんで俺が米沢まで立ちん棒なんだよ。新幹線の低い窓からじゃ田圃(たんぼ)しか見えねえだろが」
「コツコツ生きてる人たちの生活が見えますよ」
「お前とはやってられんわ。どけどけ」
 そう言って大男さんは通路に出てきた。そして迷うことなくタケルに話しかけてきた。
「やあ少年。君の横の席は空いてるかい?」
 いきなり話しかけられ、タケルはドギマギした。
「はい──たぶん空いてます」
「そうかい。ありがとよ」と言うや、スルッと滑り込んでタケルと肩を並べた。相方が叫ぶ。
「タンクさーん。検札来たらどうするんスかー」
「そんなモン適当に言っとけ」そしてタケルの方を向いた。「うるさくてすまねーな、少年」
「いえ」知らない人と話すのは得意じゃないけど、この人は知らない気がしない。
「おじさんたちは記者ですか?」
「聞こえてたか。そうなんだ、人に会って話を聞いて、それを文章にまとめて記事にする。これが俺の仕事だ。名前は丹内九州男(たんない・くすお)、略してタンクって呼ばれてらあ。あいつは」と相方を指さし「カメラマンの口野正典(くちの・まさのり)、又の名をホーダイ、なんでかっつーと、大砲みたいな超望遠レンズをどんな時でも持ってくるからよ。いいか、室内で撮影する日でさえ持ってくるんだからヘンタイなんだ」
「違うっスー。チャンスを逃がしたくないだけスー」ケースを撫でながらホーダイは反論した。
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