− 第39回 −
第四章 光の河II 13
 父さんは“光の河”を歩いていく──。
 カッコいい。なんてカッコいいんだ!
 父さんは間違ったことなんか何もしていない。ぼくにそう伝えたかったんだ……。
「父さん、すぐに帰ってくるよね」タケルはうれしさに我慢できず、祖父に同意を求めた。
「そうだな……」祖父は冷めたお茶漬けにようやく箸を付けた。
 雪は小康状態になった。
 タクシーがつかまらなかったので帰りはバスにした。知った顔に会うかと不安だったが杞憂(きゆう)だった。ふたりは一番後ろの座席に並んで座った。
 タケルの目が何気なく見た車内広告に釘付けになった。祖父も何事かとタケルの視線を追った。発売されたばかりの週刊誌の見出しだった。
《イケメン銀行課長、アキレた勇み足》
《県と銀行を手玉に取った選民(エリート)課長の失速》
 タケルにもそれが父のことであるとわかった。
 その時、タケルの携帯が鳴った。警察からだった。いつものように祖父に代わってもらった。
「ゆ、由里子がですか──?」祖父は絶句した。

 降りる停留所に着くと、タケルは駆け出した。雪がザッザッと後ろに飛び散った。
 家の周りにはマスコミがまた数台の車を止めていた。近所の人の姿も見える。
 TVカメラがタケルに寄ってきた。
「いま、大和容疑者の息子が帰ってきました。──ボクぅ、お話聞かせてくれるぅ?」
 マイクを向けたニヤケ顔を『ぼくチャン野郎に用はない』とばかり無視して家に駆け込んだ。勢いづいて玄関にいた警官にぶつかった。警官は無表情でタケルの肩をつかみ、後から走ってきた祖父に言った。「こちらです」
 家の中から母の歌うような声がした。「うちの人はどこなの? タケルはどこ?」
 バスにかかってきた電話は「由里子さんが病院を抜け出しました。ご自宅に向かったようです」という連絡だったのだ。
「あぁタケル、いたのね、よかった。父さんと一緒だった?」
 婦人警官に付き添われていた母はその手を振りほどき、タケルに駆け寄って抱きしめた。タケルの耳にも母の声色は普通じゃなかった。
「町の人が寄ってたかってひどいこと言うのよ。お前んとこは泥棒だの、犯罪者だのって。私たちはこんなリフジンなハクガイに負けないで生きていきましょうねぇ」
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