− 第28回 −
第四章 光の河II 2
 食後、自室に戻ったタケルは、すでに米沢行きを決意していた。「自分みたいな子供が行ってどうなる」という考えがサッと心をかすめたが、気にしないことにした。
 そうと決めたら次は計画だ。まず言えるのは、この行動は秘密だということ。目的地が以前住んでいた米沢だといっても、訪ねる相手が行方不明なのだ。祖父ちゃんが許してくれるはずがない。話せば、まず向こうの警察に問い合わせよう、警察の人に研究所の様子を見に行ってもらおうと言うだろう。でも祖父ちゃんは知らない。博士と警察の仲が悪いことを。
 以前、博士が近所の住民から激しく苦情を申し立てられたとき、間(あいだ)に入った警察に対して博士は「間違ったことは何もしとらん」と強く主張し、警察のやり方に強く抗議した。それが印象を悪くしたのだ。宥(なだ)めに来た警察署長にさえ住民の前でひどく問い詰めて、赤っ恥をかかせたんだから。その署長さん、博士をひどく毛嫌いしているという噂だ。
 だから誰にも頼れない。自分の目で確かめる。
 ──しかし米沢は、遠い。タケルは物心ついてこのかた、山形県を出たことがなかったのだ。春の引っ越しのときでさえ、運送屋の車の助手席でボーっと外を眺めていただけだった。どんな道を走ったのかさえ憶えてない。それ以前には帰省したこともなく、いつも祖父ちゃん祖母ちゃんのほうが米沢に訪ねてきてくれた。だから新幹線にも飛行機にも乗った経験、いや記憶がない。
 タケルはインターネットで交通手段を調べてみた。その結果、鉄道も飛行機も所要時間にそれほど違いはないが、飛行機の方が片道一万円高いことがわかった。タケルは思いだした。食事中に見ていたTVニュースで、大型台風が接近しているため、明日、飛行機は欠航の可能性があると言ってたことを。それなら鉄道に決まりだ。でも鉄道だってわからない。影響が出る前に動かないと。
 京都から米沢までの新幹線の運賃は二万円少しだ。でも内訳にある「乗車券」はいいとして「特別料金」ってなんだ?
 机の上のゴジラ型貯金箱のフタを開けた。小銭を含めて三万円弱。片道分しかないじゃないか。うーん。タケルは弱気になった。やっぱり無理なのか。子供には無茶な計画なのかな……。
 とにかく行くだけ行こう。向こうでバイトして帰りの費用を稼ごう。やったことはないけど…。そうと決まれば、もう考えないことにした。明日は早い。祖父ちゃんらが起きる前に出発だ。
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