![]() − 第27回 − 第四章 光の河II 1 |
『まもなく12番線に、6時46分発のぞみ一○四号、東京行きが参ります』 JR京都駅。早朝。 アナウンスが新幹線の接近を告げ、タケルの緊張はますます高まった。背中とリュックの間を冷たい汗が流れ落ちる。ポケットからチケットを取り出してホームの行先表示と見比べるのはもう何回目だろう。乗りまちがえて博多に行ってしまったらどうしよう。そんな心配がタケルをつかんで離さない。 落ち着け。タケルは目を閉じて自分自身に囁(ささや)きかけた。まずは東京に出て、そこで乗り換えて、米沢に行くんだ。他のことは考えるな。集中するんだ。集中──。 『まもなくドアが閉まります』 ハッとして目を開けた。タケルが乗る予定の新幹線はすでに到着し、いままさに発車しようとしてるじゃないか。タケルはあわててドアに飛び込んだ。その直後にドアは閉まり、車体は静かに駅を滑り出した。汗が全身から吹き出していた。 雨が窓に水滴の線を描いている。どんよりした空が、近づく台風の猛威を先触れていた。 タケルが米沢行きを決めたのは昨夜だった。あれ以後も新出博士から連絡は来なかった。タケルの不安はもはやはちきれんばかりに大きくなり、我慢の限界を通り越した。なんとかしなくちゃいけない。何をしたらいいんだ。 これまでのタケルなら布団をかぶって、ただ不安の影が行き過ぎるのを待つだけだったろう。でも昨夜うたた寝している最中に見た夢は、タケルの中の何かに火をつけていた。 ──猿人たちに混じって、肉親や仲間をいじめる敵に真っ向から戦いを挑んだ、ぼく。 それを思い出すと、体の奥底から熱いものが込み上げてきた。自分が動かないと何も変わらないし、何も良くならないんだ。そんな気持ちが信念のようにタケルを鼓舞(こぶ)したのだ。 ただ惜しいのは、夢がクライマックスで終わってしまったこと。大男さんが持ってきた木ぎれをつかみ、さあ来いブラウン族どもーっと吠(ほ)えかったとたん、 「冷麺できたわよー」 祖母ちゃんの柔らかい声がタケルの夢を強制終了させてしまった。いらない! と叫びたいぐらい残念だったが、冷麺の誘惑には勝てなかった。 しかし以前見た夢の続編を見られるなんて……タケルはそれだけで満足することにした。 |
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