![]() − 第26回 − 第三章 溝の帯II 11 |
──あと少しだったの。地底とはちがう乾いた空気に惹(ひ)かれて、みんな一歩一歩踏みしめながら登っていったわ。その時ぐらりと揺れて地滑りが起こったの。それでもみんな必死で登った。なのに最後の最後で頭上の大きな岩が落ちてきた…。 姉の手の平がぼくから離れた。映像はそこで終わった。そうだったのか。目の前にある巨大な岩がみんなの上に落ちてきたんだ。と同時に地底世界への穴をふさぐ役割を果たすことになった。猿人のぼくが、物心(ものごころ)のつく前の物語だった。 立ち上がった姉につられ、ぼくも腰を上げた。最後に、母の遺骸に心を込めた視線を送って。 「どうして今日ぼくに話してくれたの?」ぼくはたずねずにはいられなかった。 ──あなたが急に大人になった気がするから。 帰り道、ぼくたちは木の実をかじりながら、しんみりと歩いた。姉からはもうどんな言葉も聞こえてこなかった。 家が近づくと、騒々しい声が聞こえてきた。峠を登り切ったとき、眼下に見えたのは、ものすごい数の猿人だった。全部ブラウン族だ。帰ってくる道を間違えたのか? と一瞬思った。 姉は何か叫ぶや、ブラウン族でいっぱいの中にまっすぐ駆け下りていった。ぼくもあわててそちらを見ると、ベージュ族が攻撃されていることにようやく気がついた。 そうか、ブラウン族の奴ら、今度は数を頼りに攻撃を仕掛けてきたんだ。にしてもすごい数だ。奴らが小学校の朝礼で校庭に並んだ全校児童だとすると、ベージュ族は先生ぐらいしかいない…。そんなバカな例えをしてる場合じゃない。このままじゃベージュ族は全滅だ。 ぼくも姉の後を急いで追った。駆けながら使えそうな木ぎれはないかと探したが見当たらない。ええい、今日はカンフーで勝負だ! 両陣営が取っ組み合いをしてるど真ん中に走り込み、さて相手を、と振り向きざま、横っ面を思いっきり殴られた。そうだった。奴らは野生の動物なんだ。しかもベージュ族と違ってケンカ慣れしてる。頬をさすりながら見れば、ベージュ族は完全に押されモードだ。 そのとき、高く力強い声がした。大男さんだ。反対側の丘を何か抱えながら降りてくる。木ぎれだ。それも何本も。彼は仲間にこれで戦えと渡していく。ブラウン族は浮き足立った。大男さんと眼が合ったとき、彼はぼくにウインクしたような気がした。 |
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