![]() − 第24回 − 第三章 溝の帯II 9 |
──そう、ここはわたしたちの生まれ故郷。 まるでSFのような話だ。でも映像は疑いをはさめないほど臨場感に満ちている。以前観た映画に地底の世界を扱ったものがあったけど、翼竜(よくりゅう)や首長竜(くびながりゅう)などが我がもの顔でのし歩いていた。今見せられてる世界にはそのたぐいの恐竜はいないようだけど、今のところ。 目線が地上に戻った。映像は再び、乳飲み子を抱く母親をズームアップした。 ──これが母。そしてあなた。 抱かれておいしそうにお乳を飲んでいるのがぼくかぁ。照れくさいぞ。そばで木の実をかじってる小さな子が姉らしい。かわいい。 後ろに見える小高い山には、いくつも洞穴の家があり、集落を成している。こんな集落は他にもいくつかあるらしい。ここのボスは父だという。 場面は変わった。真っ赤な河が流れている。溶岩だ。グツグツと煮えたぎり、熱や光を発している。なるほど、これが地底世界では“太陽”の役割を果たしているのか。だから植物たちはよく見ると葉を地面に向けている。地熱が恵みになっているらしい。 植物の中にひときわ異彩を放つものがあった。花だ。花びらが紫の水玉模様。といっても指先で摘(つ)めるような愛らしい代物じゃない。ガリバーなら可能かもしれないけど、それほど巨大な花なのだ。しかしなんていい香りだ。最初に感じた“ほの甘い香り”の正体はこれだったんだ。 ──この花はとてもおいしい蜜を持ってるの。 あんまりおいしいものだから、近づくと二度と離れられなくなるんですって。なめたいときは、ボスの許しで、特に鼻の利かない仲間が代表で汲(く)みにいくの。溶岩で温めた水で割って飲むと、うっとりするような味なのよ。 本物の水の流れる川が見えた。父や男たちが魚を獲っている。川べりでは家族らがそれを見守っている。争いのない平和な世界……。 ──この温和な地底でわたしたちは昔から生活をくり返してきたの。ところが──。 地底世界もふだんから地震とは無縁じゃなかった。ときおり起きる地殻の揺さぶりに溶岩があふれ出し、命を落とす仲間がいた。天井からの落石による被害も珍しくなかった。それらは仕方のない天変地異であり、猿人たちにとって、たまの天災も含めてここは住み良い場所なのだった。 しかし楽園は永遠じゃなかった。 |
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