![]() − 第19回 − 第三章 溝の帯II 4 |
ゴゴゴゴゴ。 揺れは大きな地鳴りと共にやってきた。 いくら地震国日本に生まれたぼくでも、こんな揺れは初めてだ。地面が震えるというより、踊ってる感じだ。怖い。とても怖い。怖すぎて笑えてくる。まるで冗談みたいだ。 振り返って仲間の猿──猿人と言わないと失礼か──たちを見た。みんな同じように揺られている。父さん猿を背負ってくれてる体格のいい猿人も、姉さん猿もぼくと同じく、ザルの中の砂粒状態だ。早く治まってくれ、と念じるしかない。 じっさいは一、二分だったろう。ようやく揺れが静かになってきた。地鳴りが遠のいていき、その分、騒いでいる鳥や獣たちの鳴き声のほうが大きく聞こえる。 ホッと胸をなでおろした、その時だ! ガラガラガラ。 さっきのとは音程の違う地鳴りが足下から響いてきた。今度こそ本当に背筋が寒くなった。 ドシン。地面が激しく傾いた。ぼくも仲間たちも一気に滑り落ちていった。体のあちこちが擦りむけるが、頭を庇うのがせいいっぱいだ。もういいかげんにしてくれ! ドドドドドド、ズシンンンンン。 低い地響きが空気を揺るがし、今度こそ本当に静かになった。ぼくはしがみついていた太い木を支えにして立ち上がった。 風景がガラリと変わっていた。ぼくたちがいる辺りは、まるで台風に晒(さら)された屋根瓦のように、でこぼこだった。地割れの数も大きさも前回の比じゃない。心臓の弱い人ならこの風景を見ただけで卒倒するだろう。 驚いたのはそれだけじゃない。山の一部がごっそり剥げ落ちている。それだけでドーム球場1個分はあるだろう岩の塊(かたまり)が、猿人たちの戦場だった場所をまるごと押し潰していたのだ。 危なかった。あと30分遅ければ──。 そしてもうひとつ重要なことに思い至った。あの大岩は争いの元になった美味しい実のなる森の一つを消してしまった。たび重なる地震は猿人たちの食糧事情をも悪化させていたんだ。 事の真相を知ったぼくは、ともあれ、姉さん猿や仲間たちと力を合わせて、父さん猿を担ぎ、棲み家(すみか)へと急いだ。 峠に差しかかると夕陽に照らされた山々が見下ろせた。あの『溝の帯』が、さらに深みを増し、ぼくたちの楽園に対して毒牙を伸ばしつつあるのは誰の目にも明らかだった。 |
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