− 第13回 −
第二章 光の河 9
 電話の奥で何かが割れるような音がした。
「なに?」とタケルは尋ねた。
「ん──なに、またウチの動物(コ)たちが暴れとるんだろう。最近はずいぶんやんちゃになってなぁ」と博士。「どれ、見て来るかな」
「長い時間、聞いてくれてありがとう」
「いやいや、わしにとってもタケルと話すのは楽しい。こちらこそありがとう。もう話し残したことはないか?」
 タケルは考えた。何か言い忘れてることがあるような気がする。でも思い出せない。
「また電話します」
「そうしておくれ。じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」と電話を切った。
 今夜はぐっすり眠れそうだ。

 それから二日ほどは陽ざしの強い、快晴の日が続いたものの、三日目にしてあいにくの雨模様となった。タケルは学校で借りた本を昨晩中にすべて読み終えていたので、今日はどうしても登校して次の本を借りたかった。それに今日は井沢先生が当番の日だ。TVのニュースによると、大きな台風がゆっくり近づいてるらしい。待っていても雨は止まないだろうという祖父ちゃんの意見を聞き、タケルは家を飛び出した。図書はビニール袋にしっかり包んでリュックに入れ、頭からレインコートをすっぽりとかぶっての完全武装だ。
 道路はもうあちこちに水たまりができ始めていた。タケルは自転車をいつもの半分のスピードに保ちながら坂道を下っていった。

 学校には9時半前に到着した。こんな時間に図書室目当てで来る生徒なんか他にいないだろう。雨足は心なしか少し強くなった気がする。タケルは駐輪場に自転車を止め、図書室の軒下まで走った。いま図書室はプレハブ製の仮家屋で、校舎とは独立している。本当の図書室は、蔵書数が増えたので拡張工事中なのだ。
 図書室の入口は鍵が掛かったままだった。おかしいな、今日は9時から開いてるはずなのに。鍵は当番の先生が開けてくれることになっている。ガラス窓から覗くと電灯もついてない。
 タケルは職員室に行ってみた。他の先生はいたが井沢先生の姿はない。尋ねるとまだ登校されてないという。どうしたんだろう。タケルは職員用の駐車場に足を向けた。雨の日は愛用の車で来るはずだ。校舎の出入口から目を透かしてみた。
 あった! 先生の赤の車だ…!
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