− 第2回 −
第一章 溝の帯 2
 僕はそのまま、何人かを飲み込んだ地面の裂け目を凝視し続けていた。いま目にしたのは、ほんの目と鼻の先で実際に起こったことなのか、何度も自分自身に問いかけてみた。
 これじゃ、まるで映画だ。
 昨日、僕の通う小学校の体育館で、映画の上映会があった。ふだんなら上映する映画も、偉人伝のような教育映画か、動物たちが主人公で彼らが旅をするディズニーお得意の物語みたいなのが相場だ。でも今回はうちの小学校出身の映画監督の講演がセットということで、監督さん自身が作った“怪獣映画”が上映された。先生方は最初、上映するかどうか、PTAを交えてかなり揉めたらしい。それでも最後は曲がりなりにも全員一致で上映を決定したのは、新興住宅地から通う子供が多い土地柄だったせいだろうと誰かが言ってたっけ。
 監督さんはかなりのおじいちゃんだった。僕ら子供たちは、最近観た映画の話は聞けそうにないなとがっかりしてたんだけど、お話を聞いてるうちにぐんぐん引き込まれていった。
 監督さんが仕事を始めたのは白黒映画の時代だったそうだ。当然CGなんてない。若い頃は、脚本に書いてある突拍子もない話をどうやって撮影するか、とても苦労したらしい。でもいろんなアイデアや工夫で乗り切ってきたことで、どんな無茶な要求にも応えられる自信がついたそうだ。
 とにかく監督さんのお話は抜群に面白かった。続いて上映された映画は古くさかったけど、作る人の気持ちで観たのですごく楽しかった。でも怪獣が登場するシーンでは、火山が噴火し、山裾の町が大きな地震に見舞われ、たくさんの人が地割れの中に落ちていった。とても怖かった。

 ハッと我に返った。これは映画じゃない。落ちた人は痛かったはずだ。大怪我したはずだ。血が出たはずだ。いや死んだかもしれない…。
 いつか地震はおさまっていた。まだ地面はわずかに震えてる。砂埃(すなぼこり)が少しずつ晴れてきた。さっき走ってきた道がぱっくりと真横に裂けている。それこそ怪獣の口のようだ。僕はぞっとした。
 目の端で何か動いた。割れ目の縁(ふち)に誰かの手が見える。ぎりぎりで掴まってる人がいるんだ。僕は考えるより先にダッシュしていた。10メートルを一息で走りきり、手をつかんだ。ぼくの半分ぐらいの身長の子供だ。ぐいっと引き上げた。
 げっ、子供じゃない! 全身毛むくじゃらだ!チンパンジー? 僕は仰天して尻餅をついた。
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